ファイナンス 2021年11月号 No.672
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8政府による失業保険改革案策定のキックオフ労使の合意未達を受け、2019年2月、フィリップ首相*33とペニコー労働大臣*34はそれぞれ会見を実施し、政府として夏までに失業保険改革案を策定する方針を正式に表明した。フィリップ首相は以下表2の4点にわたる改革案策定の視点を、現行制度が引き起こす不合理な実態にも言及しつつ、示した。また、同記者会見において、フィリップ首相は失業保険財政の健全化の必要性にも重ねて言及している。(表2)フィリップ首相が表明した改革案策定の視点改革案策定の視点現行制度の不合理な実態短期雇用の濫用に適切に対応する。一か月未満の有期雇用(CDD)から離職した者の8割が、同じ雇用主に再雇用されている実態就労が失業よりも常に高い対価を支払われる仕組みとする。公的保険の財政を蝕みながら就労時の賃金より高い失業手当受給を繰り返し、かつ雇用形態の不安定化を引き起こしている一部の実態就労時に高所得を得ていた者の失業手当水準の適正化手当上限が欧州内の隣国の3倍程度となっている実態失業者支援の強化―以上見てきたように、マクロン政権発足から2年ほどの間に、失業保険改革のボールは政府と労使代表の間を二往復した。その過程の中で、歴史的には労使自治が原則である失業保険制度への政府の関与が一層強まるとともに、改革のウイングは右派の方向に広がった。来月号においては、政府自身の手でまとめられる改革パッケージの全体像と、その本格施行を前にコロナ危機が襲い掛かる様を見ていくこととしたい。※ 本稿の内容は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではない。*33) https://www.gouvernement.fr/sites/default/les/document/document/2019/02/conference_de_presse_de_m._edouard_philippe_premier_ministre_et_de_mme_muriel_penicaud_ministre_du_travail_sur_lassurance_chomage_-_26.02.2019.pdf*34) https://travail-emploi.gouv.fr/actualites/presse/discours/article/discours-reforme-de-l-assurance-chomage(写真5)エドゥアール・フィリップ前首相((C)Ville du Havre-Lou BENOIST) ファイナンス 2021 Nov.37コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方SPOT

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