ファイナンス 2021年11月号 No.672
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政府サイドから労使代表に向けて「宿題」が突き付けられた形だった。交渉の期間は4か月に設定され、政府は労使代表に対して2019年1月末までに合意に達するよう求めた。ペニコー労働大臣は、この段階で失業保険改革をマクロン政権における労働市場改革の第三段階(第一段階としてのマクロン・オルドナンス、第二段階としての職業訓練・見習研修制度改革に次ぐもの)と位置付けている旨を表明した。7労使代表、課題をこなせず(合意未達)2018年11月初旬にキックオフした労使交渉は、約3か月継続したものの、2019年2月20日には労使合意に達することができないことが確定的となった。特に、労働組合側が短期雇用の濫用に対応する観点から「ボーニュス・マリュス制度」の導入を強く主張した一方で、経営者側は、同制度はむしろ雇用に悪影響があるとして反発したことが、最大の決裂点になったと捉えられた。また労働組合側は、政府が求める年10~13億ユーロの歳出合理化策を策定することに後ろ向きだったとされる。当初枠組み文書において示されていたとおり、この労使合意未達を受けて、今度は政府が改革内容の策定に乗り出すこととなったのである。マクロン大統領は労使合意未達が確定した日の翌日、「労使の関係者は『労使自治、地域ごとの民主主義、社会保障分野における民主主義が重要だ。我々自身の手でやらせろ。』と日々言っている。そこで任せてみると『ねえムッシュー、これはきついですよ。政府で決めてくださいよ。』というではないか。」と述べ、労使の当事者能力の欠如をあげつらった*30。これに対して、当然労使双方から反発が生じる。経営者側のMEDEF、ルー・ドゥ・ベジュー会長は、報道機関のインタビューに答えて、「もともと、この改革に向けて政府から課されたミッションは完遂することが不可能なものだったのだ。政府の介入が常態化すると、コンセンサスを得ることは、それはきついですよ。それから政府がボーニュス・マリュス制度についてし*30) https://www.lemonde.fr/politique/article/2019/02/22/macron-critique-les-partenaires-sociaux-apres-l-echec-des-negociations-sur-l-assurance-chomage_5426779_823448.html*31) https://www.lesechos.fr/economie-france/social/assurance-chomage-le-patron-du-medef-repond-aux-critiques-de-macron-993583*32) https://www.lesechos.fr/economie-france/social/echec-de-la-negociation-chomage-les-syndicats-repliquent-a-macron-993371か語らない中で、労働組合から歳出合理化策を引き出すこともきついですよ。」*31と、マクロン大統領が用いた「きつい(dur)」という言葉を用いて反論している。また、労働組合側では、CFDTのローラン・ベルジェ書記長がツイッターで大統領に反論している。「民主主義は短い言葉やメディアを介した発信で成り立っているのではない」、「スケープゴートを仕立て上げる方法は短期的にはうまくいくようでも将来的には非生産的だ」、「交渉が隘路にはまり込むことを承知で指示を出した大統領に合意未達の責任がある」、などと非難している*32。(写真4)ローラン・ベルジェCFDT書記長(Anne Bruel Infocom CFDT)労使自治の原則に立脚する失業保険制度に対して、政府がもう一段関与を強化する条項を盛り込んだペニコー法が伏線となり、以後、改革パッケージ策定は政府の手に移っていく。36 ファイナンス 2021 Nov.SPOT

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