ファイナンス 2021年11月号 No.672
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金利が設定され、さらにその半年後に事前に決められた金利を支払います。このようなプロセスを満期まで繰り返していくことになります。この取引は、(1)6か月後に支払う金利が事前に決まっていること、また、(2)支払う金利が(1営業日ではなく)半年という期間を有するという特徴を持っていますが、専門用語を用いれば、前者が「先決め金利」であり、後者が「ターム物金利」と呼ばれます。LIBORはこの二つの特徴を有していることから、「先決めターム物金利」と整理されます。このようなLIBORの性質は読者にとって当たり前に感じられるかもしれません。事実、我々が普段直面する金利はこのような性質を持っています。しかし、LIBORが「先決めターム物金利」を簡単に構築できる最大の理由は、前述のような投票の形でLIBORが決められているからです。LIBORでは、パネル行の投票で決まりますから、具体的には、パネル行に対して、「3か月間や6か月間、金融機関に貸出をする場合の(先決めの)オファー・レートを提示ください」と聞き、トリム平均をとることで、先決めターム物金利を計算することができます。もっとも、実は、このような投票によらず、実際の取引に立脚した先決めターム物金利のプライスを得ることは簡単ではありません。なぜなら、円市場における銀行間のコール市場において6か月間の貸借は取引がほとんどなされておらず、公正な価格が容易に観察できないためです。上述のように、先決めターム物金利は使いやすいなどの特徴がありますが、一方で銀行間のコール市場では実取引が少ないためにフェアな価格かがわかりにくいという問題点を有しているわけです。近年の低金利政策等によりインターバンク市場の流動性が低下傾向にあることから、この問題は構造的な問題といえます(実はインターバンクの流動性低下もLIBOR停止の重要な要因なのですが、詳細は別の論文で記載します)。したがって、LIBORの代替金利を考えるうえで、実際の資金取引に立脚するという観点でいえば、「先決めターム物金利」という特徴を有*19) ハル(2016)では、「本書の大部分で“無リスク金利”という場合、実際にどの金利を参照するかは明確に定義していない。これは、デリバティブの実務家は無リスク金利の代替として多くの異なる金利を使っているためである。AA格の金融機関が短期間の借入れでデフォルトすることもわずかながらありうるので、LIBORは無リスク金利ではないが、金融機関は伝統的にLIBORレートを無リスク金利として使ってきた。しかし、これは変わりつつある」(p.125)と説明しています。する金利指標は実取引が少ない点がネックになるわけです。いずれにせよ、LIBORが「先決めターム物金利」という特徴を持っており、この利便性が高いということを認識しておくことは重要です。3.4  ターム物金利としてみたLIBORの構成要素ところで、LIBORはしばしば「リスク・フリー・レート」として取り扱われます。実際、LIBORに代わる代替的な金利指標は、リスク・フリー・レートを模索する作業とされます。しかし、LIBORをリスク・フリー・レートとして取り扱うことに違和感を持つかもしれません。というのも、LIBORは銀行間の資金融通にかかる指標金利であるため、完全にリスク・フリーではなく、銀行の信用リスクを反映していると解釈することが自然であるからです。たしかに、金融危機以前は、大手金融機関がデフォルトする可能性が考えられなかったため、ファイナンスのテキストではLIBORをリスク・フリー・レートとして取り扱われてきました*19。もっとも、リーマン・ブラザーズの破綻を発端とした金融危機以降、上述の想定は成立しないといえましょう。そのため、LIBORの代替金利を考えるうえで、LIBORを純粋にリスク・フリーの部分とその他の部分を分けて考える必要が出てきます。図4は日銀の資料などでよく用いられるLIBORの構成要素のイメージを示したものです。同図において、(1)として「リスク・フリー・レート(TONA)」とあります。無担保コール翌日物金利(Tokyo OverNight Average rate, TONA)とは、無担保コール市場で形成される1営業日の金利になります。ただ、LIBORは前述のとおりターム物金利であるため、(2)TONAを用いた複利計算することでターム物金利と利子計算の期間を合わせる必要があります(TONAやその複利の計算については次回の論文で詳細に説明します)。さらに、前述のとおり、LIBORは金融機関のクレジット・リスクなどのリスク・プレミアムが追加されるため、これにさらに(3)金融機関のクレジット・プレミアム16 ファイナンス 2021 Nov.SPOT

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