ファイナンス 2021年11月号 No.672
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15時時点で自分が考える「公正な価格」に関し、いわば投票を行うことで公正な価格を決めるというものです。すなわち、数十社の業者からある商品について公正と思われるプライスを提示してもらい、その異常値(典型的には上下数パーセント)をカットし、中央値や平均値を計算することで公正な価格を求めるわけです(このような平均の計算方法をトリム平均などといいます)。このような考え方はOTC市場において様々な場面で用いられています。例えば、日本証券業協会は15時時点の各種債券の価格を算出していますが、現在、業者から提示されたプライスを用いトリム平均を計算することで算出してます(例えば、財務省が公表する国債の金利もこの値に基づいています)。国債の場合、このような算出方法により15時時点に決まった価格を「引け値」といいます*15。重要な点は、OTC市場において特定のタイミングにおけるフェアなプライスを得ることは、国債のように発行規模が大きい市場においてすら必ずしも容易でないという点です。この事実はLIBORの考え方や代替金利を考えるうえで最も重要な点の一つと筆者は考えています。*15) 日本相互証券は独自に当日午後3時時点の国債価格の引け値を出しています。実務家は「BBの引け値」という表現を使います。日本相互証券は2019年に引け値の算出方法を変更しており、現在は投票のような形でない仕組みがとられています。詳細は下記をご覧ください。https://www.bb.jbts.co.jp/ja/marketinfo/bb_hikene.html*16) 後述する通り、LIBORの算出については、BBAからICEに移管されましたが、実施の算出・公表は、ICEの子会社であるICE Benchmark Administration(IBA)が担っています。3LIBOR(London Interbank Offered Rate)とは3.1 LIBORとは前節では、相対取引の市場ではある特定のタイミングにおける公正(フェア)なプライスを決めることは本質的に難しいという話をしてきました。このことは例えば午前11時の短期金利を定める際にも例外ではありません。そこで、LIBORについてもやはり前述のような投票の仕組みをとります。具体的には、LIBORではインターコンチネンタル取引所(Intercontinental Exchange, ICE)と呼ばれる組織がレファレンス・バンク(パネル行)と呼ばれる大手銀行に、ロンドン時間11時時点に銀行へ無担保で貸し出しをする金利(オファー・レート)を提示してもらいます*16。そのうえで、各行が提示したレートの上下25%を除いた残りの50%の平均値を計算することで「ロンドン時間の午前11時時点の金利」を計算します(図2)。前述のとおり、11時点のプライスといっても11時時点において実際の取引に基づくデータを得ることは困難ですから、パネル行に11時時点で各行がフェアと考える貸出金利を提示してもらい、そのトリム平均を計算することで金利を算出しているわけです。LIBORは、米ドル、ユーロ、ポンド、スイスフラン、円という5つの通貨について上述のメカニズムで本稿を読まれた読者の中には、OTC市場においてセールスが不要に感じる読者も少なくないかもしれません。事実、筆者自身昔から感じてきた疑問であるし、また、多くの実務家が一度は感じたことがある疑問です。本稿では、セールスの役割として「トレーダーと投資家は基本的に利害が対立するため、両者が折り合える価格を探す」という説明をしました。これ以外にも、例えば、マーケットの状況を投資家に適切に説明したり、投資家のニーズをトレーダーに伝えることで適切な在庫管理を可能するなど、重要な役割を果たしています。その一方で、実際、米国市場などでセールスを通さない電子的な取引が増えていると報道もあります。株式市場に目を移すと、1990年代にオンライン証券が勃興し、個人投資家の株式の売買はセールスを介した対面の取引からオンラインにシフトしていったことは周知の事実です。もっとも、この論点は10年以上前から指摘されながらも、少なくとも円債市場では運用規模が数兆円を超えるプロの投資家でさえ、セールスを介した取引が今でもなされています。本稿では、セールスの役割について積極的な説明をしましたが、セールスの役割は技術進歩などとともに常に見直されていくものだと筆者は感じています。BOX 1 OTC市場においてセールスの役割 ファイナンス 2021 Nov.13金利指標改革入門SPOT

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