ファイナンス 2021年10月号 No.671
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のお浸しと、蛸と豆もやしのキムチ風サラダ。いずれも歯に悪そうだが、当たりが悪い日というのはこんなものである。煮豚は我ながら美味かったが、歯の穴が気になるので、早々に念入りに歯を磨く。酒は歯に悪そうなので、冷水に数滴ウィスキーを垂らしたものを飲む。テレビをつけるが、大して面白くもないので消し、昼寝前に読み終えた前掲書をパラパラめくり、ところどころ読み返す。ところで先程歯磨きの時に洗面所の鏡で自分の顔を見た。正しく草くたび臥れた初老の男の顔であった。因みに「初老」とは本来は「不惑」同様四十歳を指すらしい。「四十にして惑わず」と言うが、筆者はと言えば、還暦を大分過ぎたというのに「惑わず」とは程遠い。それに加えて思うのは、「少年老い易く学成り難し」とは至言であるということだ。若いころもっと勉強すればよかった。学問でなくとも芸事でも道楽でも何事か究めたら素敵だったろうな。来し方に思いを致し、ああすればよかった、こうしておけばよかった、あれはこういうことだったのかと、ため息交じりに愚痴を独り言つ。ふと思う。前掲書の主人公宗春公は、隠居謹慎を命じられても、ああすればよかった、こうすればよかったととりとめもない愚痴を漏らすようなことはなかったのではないか。たまには吉原に行きたいとか、芝居を観たいとか思ったろうが。節制勤倹が嫌いなことは筆者も同類であるが、真正放蕩者の宗春公と小心翼々の筆者とではスケールが違うのである。情けないと言えば情けない。ところで前掲書の中に、「書物から学んだわけではないし、誰に教えられたというのでもない。…年齢とは不思議なものである。どうやら、年齢を重ねるうちに、しぜんに脳そのものが変化していくらしかった。年をとるにつれて、世の中の仕組みというものの正体が、だんだんわかるようになってきていた」という一節があった。わかるようになるころには、現役を卒業し、気力も体力も知力も下り坂になっているのが、凡人の凡人たる所以である。むにゃむにゃ言っているうちに、何やら腹が減ってきた。歯が気になると言いながら、飯に煮豚の残りをのせて掻き込む。再びテレビをつけて、ぼーっと見る。グラスにウィスキーをどぼどぼと注ぎ足し、ポテトチップの袋を開け、完全にカウチポテト態勢に入る。前掲書の著者の筆致を真似れば、「過去の怠惰を後悔したようにみえてすぐまた怠惰に流れる程度の人物だからこそ、60余年も無芸大食の人生を歩むことができているともいえる」。やれやれ。もう寝よう。〈材料〉 豚ロースかたまり肉(煮豚用にあらかじめタコ糸のネットに包まれているものがよい)4~500g、キャベツ半玉(食べやすい大きさに切る)、茹で卵4~8個(殻をむいておく)、醤油120cc、酒60cc、味醂(大匙4)、砂糖(大匙4)、生姜1片(薄くスライス)、おろしにんにく(小匙2)、五香粉、練り辛子(1)豚肉と茹で卵が入る大きさの鍋に水600ccを入れ、沸かす。(2)フライパンにサラダ油大匙1を引き、五香粉を振った豚肉を入れ、中火で表面に軽く焦げ目がつくまで焼く。(3)豚肉と茹で卵を鍋に入れ、醤油、酒、味醂、砂糖、生姜、おろしにんにく(小匙1)を加え、落し蓋をして、中火で約30分煮る。途中で肉の上下を返す。煮汁が少なくなってきたら味見して、醤油と砂糖で味を調整する。この間別な鍋にキャベツの湯通し用の湯を沸かしておく。(4)煮汁が1センチ位になったら火を止める。肉と茹で卵を取り出し、肉は好みの厚さにり、卵は半分に切る。(5)キャベツを湯通しして、ざるにあけ、よく湯を切ったら、ボウルに入れ、おろしにんにく小匙1と塩小匙1を加え混ぜる。(6)皿にキャベツを敷き、煮豚と卵をのせ、煮汁をかける。辛子をつけて食べる。煮豚のせ茹でキャベツのレシピ(4人分) ファイナンス 2021 Oct.77新々 私の週末料理日記 その46連載私の週末 料理日記

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