ファイナンス 2021年10月号 No.671
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という「本部」が策定した基準に従ってその実施を各地域で担う、実質的支部としての役割を果たしている*7。自発的取組と言いつつも、その設立に当たっては先進国、特にFATFの設立を牽引した米仏が、強い梃入れを行った。FATF本体はコンパクトに留めることでルール・メイキング機能の機動性を高め、かつ、地域の自発的取組という形を取ることで、お仕着せではなく、地域の実情に合った基準の適用を促すという、巧みな戦略である*8。これにより、FATFは巨大な国際機関にも比肩し得るネットワークを、他には類を見ない形で築いているのである。最後に第三として、スタート地点においてこの枠組みは、必ずしも永続的なものとして構想されていた訳ではなかったという点を、指摘しておきたい。先進国を中心とした、短期間の集約的な取組みによって、マネロン対策の国際レベルを引き上げれば、この組織の役割は終了するというのが当初の見込みであった。従って、名前もライトに「作業部会(タスクフォース)」とされたのである。しかし、当初の目論見は大きく外れることとなる。残念ながらマネロンの脅威は*7) High-Level Principles and Objectives for FATF and FATF-Style Regional Bodies, FATF, February 2019*8) 中東・北アフリカ地域のFSRBであるMENAFATFの設立経緯につき、Juan C. Zarate, Treasury’s War – The Unleashing of a New Era of Financial Warfare, Public Affairs, 2013、P164-167深刻さを増す一方であり、他方で国際基準の調和化は想定以上に困難な作業であった。そのような中で、都度ごとに自分たちの活動指針(マンデート)を延長するという形を取りながら、「実質的に恒久化されて来た暫定組織」というのが、FATFの本質である。形の上でもマンデートが恒久化され、名実ともに「廃止されない限りは存続する」形態となったのは、実はつい最近の2019年に過ぎない。とは言え、現在でもFATFがフルフレッジ(完全体)の国際機関かと言えば、そうではない。事務局長をヘッドとした事務局はあるが、前述の通りOECDの軒下を借りている状況であり、ましてや常任の各国理事や大使がいる訳ではなく、法人格もない。今のFATFは、会議体と国際機関の中間のような、何とも形容し難い存在である。よって、その組織形態を強化しようという議論も断続的になされてはいる。他方でFATFの現実の機能性に着目した場合、その外形的組織論に時間を費やすのが無意味と思える程、この組織は既に、実質的には高い執行力を獲得していることもまた事実である。この点については、次章にて論ずる。FATF全体会合の様子(筆者撮影) ファイナンス 2021 Oct.71還流する地下資金 ―犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い―連載還流する 地下資金

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