ファイナンス 2021年10月号 No.671
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ファイナンスのテキストでは、SABRモデルの前にCEVモデルが紹介されます。CEVモデルは、Cox and Ross(1976)が提案したモデルですが、ブラック・ショールズ・モデルについて、スキューを表現するために拡張したモデルといえます。CEVモデルとはdF=σFβdWというモデルでしたが、具体的には、β<1(β>1)のとき、原資産の価格が下落(上昇)するとボラティリティが高くなり、左裾(右裾)が厚くて右裾(左裾)が薄い分布となり、スキュー表現することが可能できます。また、CEVモデルは解析解が存在しており、計算負荷が小さく、素早く計算できるというメリットも有しています*25。この観点では、SABRモデルは、CEVモデルのボラティリティに確率を導入することで、ボラティリティ・スマイルを表現しながら、フィットを上げることを企図した自然な拡張と解釈することができます。BOX 3 ローカル・ボラティリティ・モデル本稿で説明したとおり、ファイナンスのテキストでは、SABRモデルにおける各パラメータをどのように解釈したらよいかについて解説がなされますが、典型的にはパラメータを変えた場合、スマイルカーブがどのように変化するかを見せることで解説します。以下では簡易的に各パラメータの解釈について説明します。アルファ(α)の解釈αはそもそもボラティリティを示していましたが、確率ボラティリティの初期値(t=0時点の値)になります。これは、スマイルカーブの水準を動かす(パラレルにシフトさせる)パラメータです。ベータ(β)の解釈βはスマイルの傾きを捉えるパラメータです。βは0から1の値をとりますが、1から0になるにつれてスマイルの傾きが急になります。市場慣行ではβは0.5とされる傾向があります*24。本文でも説明しましたが、BloombergのVolatility Cubeというツールでもβ=0.5と設定されています。Crispoldi et al. (2015)では実際にキャリブレートした場合、0.3~0.5程度の値をとる、としています。ニュー(ν)の解釈:ボル・オブ・ボルνはボラティリティ(α)にかかっているため、これはボラティリティの変動度合いを捉えるパラメータです。そのため、νは「ボラティリティのボラティリティ(ボル・オブ・ボル)」と呼ばれます。νの解釈は、スマイルの曲がり具合(曲率、curvature)を示し、νが小さくなるにつれ、スマイルカーブの曲がり具合が平らに近くなります。ν=0とした場合、dF=αFβdW1のみになりますが、この場合、CEVモデルといいます。これはdW1にαFβが掛けられているとみれば、ボラティリティが金利水準(F)に依存するモデルといえます。CEVとSABRの対応関係を考えると、SABRモデルはCEVモデルのボラティリティに確率を導入して拡張したと解釈できます。CEVモデルについてはBOX 3を参照してください。ロー(ρ)の解釈ρはdW1とdW2の二つの確率的な動きの相関を定めるパラメータであり、-1から1の間の値をとります。Crispoldi et al. (2015)によれば、ρは多くの市場において負の値をとりますが、このことはフォワードレートの低下(上昇)とボラティリティの増加(低下)の関係があるということを意味します。ρはスキューに影響を与えるパラメータであり、ρのマイナスが大きいほどスマイルの傾きが急になるという効果をもたらします。BOX 2 SABRモデルにおける各パラメータの解釈*24*25*24) 例えば、ジョン・ハル教授も2016年に記載した“Interest Rate Models and Negative Rates”の中で“users generally select a value for β as β=0.5”と記載しています。Rebonoto et al. (2009)ではβ=0.5としている理由としてその他のパラメータを安定化させるために市場参加者が工夫している慣習に近いものであり、「the choice of β=0.5 has more of a ‘sociological’ or game-theoretical explanation (self-reinforcing coordination of traders’ behaviour) than a fundamental one ( in terms of market informational efciency)」(p.70)としています。なお、β=0.5の場合、dF=α√FdW1となりますが、これをsquared root CEV modelと呼ぶことがあります。*25) CEVモデルの詳細は、ハル(2014)のp.980-891を参照してください。66 ファイナンス 2021 Oct.連載日本経済を 考える

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