ファイナンス 2021年10月号 No.671
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証券会社などマーケット・メイカーを繋ぐブローカーが板を出しているため、そこで観察できる気配値(インディケーション)であるプレミアム(ないしそれをボラティリティに変換したIV)を、式(6)でいうところの市場価格(σBMRK(k))として用いることになります。そのうえで、SABRモデルのパラメータを前述のような形でキャリブレートすることで、直接観察することができないIVを補間し、スマイルカーブを描きます。ちなみに、債券などのデータを提供するマークイット社もスワップションのデータを提供しています*21。マークイット社の強みは、Totemと呼ばれるIPV*22支援サービスなど幅広い市場データに基づいている点です。その意味では、データのカバレッジが広いことに加え、データの取得先が透明であるという利点を有しています。マークイット社はSABRモデルをキャリブレートしたうえで、様々なIVの時系列データを提供しています。具体的には、SABRモデルなどをベースに各スワップションのIVなどを提供しており、例えば、10年のOISを原資産とするスワップションについて、ATMだけでなく、50bpsアウト・オブ・ザ・マネーのIVの時系列データなどを提供しています。*21) Bloombergにせよ、マークイット社にせよ、スワップションのIVのデータを用いる場合は、これらのベンダーと契約を結ばなければいけない点が特徴です。国債のような現物の場合、財務省や日本証券業界などは無償でデータを提供しています。*22) IPVとは、Independent Price Vericationの略であり、金融商品のポジションの公正価値算定の検証プロセスを指します。4.4 ボラティリティ・サーフィス(キューブ)服部(2020a)では行使価格とIVの関係の理解を深めるために、イールドカーブのように、横軸に行使価格、縦軸にIVをとることで図表化することを議論しました。服部(2020a)では、IVはATM周辺で値が小さく、アウト・オブ・ザ・マネーにいくにつれIVがあがることから、IVを縦軸、行使価格を横軸として描いたカーブはスマイルのような形になると説明をしました。服部(2021)で説明したとおり、国債先物オプションに比べ、スワップションの場合は、7年以外の年限が取引されていることに加え、1年を超える満期のデータも取得できることから、単なる2次元のカーブではなく、3次元を表現したボラティリティ・サーフィスを描くことができます。例えば、図3はBlombergで算出された円金利スワップションで算出されたボラティリティ・サーフィスです。図3では、縦にIV、横に行使価格(ストライク)、奥行きにオプションの満期(満期日)をとっていますが、この図をみるとOTMにいくにつれてIVが上がっており、スマイルカーブが確認できます。市場参加者はこのようにサーフィスを図示して投資家がどのような期待形成をしているかを確認しています。さらに、スワップションの場合、IV、満期、行使価図3 ボラティリティ・サーフィスのイメージ注:BloombergのVolatility Cubを用いています。時点は2021年9月です。出所:Bloomberg64 ファイナンス 2021 Oct.連載日本経済を 考える

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