ファイナンス 2021年10月号 No.671
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ボラティリティをαで表現することが通例です(本稿もそれに倣っています*19)。SABRモデルと呼ばれている所以は、このモデルが確率的に従っていることに加え、α,β,ρに基づくモデルであるからです(SABRはStochastic Alpha-Beta-Rho modelの頭文字をとっています)。各パラメータについてはノーマル(ブラック)・モデルやスマイルカーブの形状などの観点で解釈することができます。例えば、β=0の場合、dF=αdW1ですから、上記の式は(2)というノーマル・モデルになります。また、β=1では、dF=αFdW1ですから、ブラック・モデルになります。そのため、βが1から0へ行くにつれてブラック・モデルからノーマル・モデルのような性質へシフトしていくと解釈できます。SABRモデルを説明したファイナンスのテキストでは各パラメータをどのように解釈できるかの解説がなされます。もっとも、実務的には一部のクオンツやトレーダーを除き、推定されたパラメータを考えることは少ないという印象です。例えば、(執筆時点では)Bloombergでも推定したパラメータの値はユーザーに公表されていません。そのため、パラメータの最低限の解釈についてBOX 2で説明していますが、詳細を知りたい人はRebonato et al. (2009)やCrispoldi et al.(2015)などを参照していただければ幸いです。4.3 キャリブレーションおよびデータここからどのようにSABRモデルを推定するかを考えていきますが、ファイナンスにおいて実際のデータにパラメータを合わせることをキャリブレーション*20といいます。例えば、ある行使価格kのオプションがマーケットで取引されているとします。その行使価格kのブラック・ボルをσBMRK(k)とします。一方、ハーゲン近似を用いれば、ブラック・ボルはSABRモデルのパラメータ(α,β,v,ρ)及びその他のインプット(フォワード・レート)が定まれば算出できます(詳細はBOX 1を参照)。そこで、ここでは、パラメータ*19) ボラティリティは通常、σで表すため、筆者は下記のように書くとわかりやすいと感じるのですが、SABRモデルにおいてこのように記載することはありません。 (,)=()(1−2)[1+(1−)2242()+(1−)419204()+⋯]∙(())∙{1+[(1−)2242()(1−)+14()(1−)/2+2−32242] +⋯}=()(1−2)()()=(√1−2+2+−1−)()~((),2(−))≈××(1−224)=[(−)()+√(−)]=1=2 *20) 余談ですが、マクロ経済学では、Calibrationを「カリブレーション」と訳しますが、ファイナンスでは「キャリブレーション」と和訳する傾向があります。ここではファイナンスの慣行に従っています。およびフォワード・レート与えた際の行使価格kのブラック・ボルをσB(k,F;α,β,v,ρ)とします(α,β,ν,ρがキャリブレートされるパラメータです)。上記を前提とすると、実際にマーケットで取引されるスワップションの行使価格は様々ですから、その行使価格ごとに、両者の差をとり、その二乗の合計、すなわち、=+1=[(1)−(2)] 1=ln(/)+2/2=1=212=2=1−√∑[()−(,;,,,)]2∈=(+ℎ)=212=(6)を計算することができます。キャリブレーションでは上式を最小化するようにパラメータ(α,β,v,ρ)を計算します。これがSABRモデルにおけるキャリブレーションのイメージです。例えば、ブルームバーグのツールであるVolatility Cubeでは、β=0.5としたうえで、ATMの値を完全に一致させるという制約を課したうえで、マーケットで取引される値と最も誤差が小さくなるようにパラメータをキャリブレートしています。IVの値はBloombergなどのベンダーが提供する値を用いることが少なくありませんが、金融機関もレポートなどを通じてデータを提供しています。もっとも、スワップション市場の場合、国債などと比べて、市場価格のデータを得ることが困難である点が特徴です。スワップション市場のイメージは、各証券会社にスワップションのマーケット・メイクを担当するトレーダーがおり、その間をつなぐブローカーがいます。スワップションの場合、国債のような頻度で売買がなされているというわけではありませんし(スワップションの場合、流動性が問題になりえる点については服部(2021)で議論しました)、そもそも常に売買があるとは限らないOTC市場(店頭市場)においてフェアな価格を得ること自体は非常に難しいことです(この点は次回の論文で少し丁寧に説明します)。Bloombergなどのベンダーが提供するIVにおいては、 ファイナンス 2021 Oct.63シリーズ 日本経済を考える 117連載日本経済を 考える

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