ファイナンス 2021年10月号 No.671
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筆者の意見では、スワップションのIVの補間においてSARBモデルが用いられる理由は、2点あります。1点目はHagan et al. (2002)がIVを近似的に求める式を導出したためです。実務で使う場合は、計算にかかる時間が非常に重要になるのですが、Hagan et al. (2002)のモデルでは近似式(これをハーガン近似といいます)があるため、計算負荷が小さく、素早く計算できます(近似式はBOX 1を参照してください)。また、これに付随して、市場慣行として活用されているブラック・モデルとの関係性が明瞭である点も指摘できます(Hagan et al. (2002)では、ブラック・ボルとSARBモデルの関係が明示されています)。2点目は、解析的に求められる性質に加え、その他のモデル(例えばCEV(Constant Elasticity of Variance)モデル)に比べ、新たなパラメータが加わっているため、実際の値に対してフィットが高まるためです。そもそも補間するうえでなぜモデルが必要なのかという疑問を持たれる読者がいるかもしれません。たしかにマーケットで見えるIVを直線(線形)でつなぐというアイデアもあり、Bloombergなどではそのような補間を選択することも可能です。イールドカーブを補間する際も、全く同じ問題があり、素朴に線形につなぐ方法もあればスプライン関数などを用いて補間するという方法があります*15。素朴に直線で補間するのに対して、明示的なモデルを用いるメリットは、カーブのフィットを高めることや明らかな裁定機会を生む補間*16を避けること等であり、実務的にもモデルを用いた補間が普及しています。4.2  SABRモデルは確率的ボラティリティ・モデルSABRモデルの特徴は、ボラティリティが確率に依存する点です。債券市場の実務では、通常、ボラティリティは確率的ではなく、確定的(非確率的)な変数*15) イールドカーブの補間は三宅・服部(2016)を参照してください。*16) SABRについてはマイナス金利の環境などでも裁定が発生しないArbitrage-Free SABRが開発されています。詳細はHagan et al. (2014)などを参照してください。*17) スワップションは本文で本稿が説明する通り、SABRモデルが良く使われますが、実務では、(1)、(2)あるいは(1)と(2)の併用(Stochastic Local Volatility Model, SLV モデル)が用いられることも少なくありません。SLV モデルの詳細は新原(2011)をご参照ください。*18) αをσという形で通常のボラティリティのパラメータで表現することで、ノーマル・ボルやブラック・ボルとの関係が明瞭になります。また、CEVモデルではαに相当する部分を通常、σで表現しています。CEVモデルはBOX 3を参照してください。とされます。もっとも、ボラティリティが確率的なふるまいをするモデルも開発されており、これを確率的ボラティリティ(Stochastic Volatility, SV)といいます。三菱東京UFJ銀行(2014)によれば、ボラティリティ・スマイルを表現するためには、(1)ボラティリティを時間以外の要素(現資産価格自身など)に依存した関数とする、(2)ボラティリティに確率構造をいれる(原資産とは別のノイズをいれる)、(3)ジャンプ項など追加的な項を加える、という拡張を必要としています。SABRモデルは、スマイルを捉えるため、(2)の観点で拡張モデルと解釈できます。実はSVは学術研究においてモデルの開発や推定方法などかなり活発に研究が進められていますが、SABRモデルは、SVが金融実務で活用されている一例といえます*17。どのようにボラティリティに確率構造が入っているかをみるため、ここからSABRモデルを具体的に見てみましょう。SABRモデルでは下記のようなモデル化を行います。=↔== ≈× =√[1√2−2/2+∙()]=−√=∑(0,)+=+1=[(1)−(2)] 1=ln(/)+2/2=1=212=2=1−√∑[()−(,; ,,,)]2∈=(+ℎ)1=212=dF=αFβdW1をみると、αFβがウィーナー過程であるdW1にかけられており、これがフォワード・レートの変動を規定します。もっとも、αの動きは、dα=vαdW2という形で別のウィーナー過程(dW2)に依存しますから、ボラティリティが確率的に動くことがわかります(ここでは再びウィーナー過程の動きは正規分布に従うイメージを思い出してください)。ここでαをσという形で通常のボラティリティを示すパラメータで記載したほうがわかりやすいと筆者は感じるのですが*18、SABRモデルでは、S「A」BRがAlphaを意味するため、このモデルを紹介する場合、62 ファイナンス 2021 Oct.連載日本経済を 考える

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