ファイナンス 2021年10月号 No.671
65/94

えで、この式が成立するようなσNを数値的に計算します。この値がノーマル・モデルに基づいたIV(ノーマル・ボル)です。なお、式(4)においてAが掛けられている理由は、スワップションが行使された場合、n年スワップを払うというポジションが生まれるため、n年間キャッシュ・フローが発生し、その時点時点のキャッシュ・フローを割り引いているためです。一方、ブラック・モデルに基づくと(式(1)に基づくと)、ペイヤーズ・スワップションのプレミアムは下記の通りになります(下記の式がブラック・モデルに基づくスワップションの公式になります)。=↔== ≈× =√[1√2−2/2+∙()]=−√=∑(0,)+=+1=[(1)−(2)] 1=ln(/)+2/2=1=212=2=1−√∑[()−(,; ,,,)]2∈=(+ℎ)1=212=(5)ここでd1とd2は下記の通りになります。=↔== ≈× =√[1√2−2/2+∙()]=−√=∑(0,)+=+1=[(1)−(2)] 1=ln(/)+2/2=1=212=2=1−√∑[()−(,; ,,,)]2∈=(+ℎ)1=212== ≈× =√[1√2−2/2+∙()]=−√=∑(0,)+=+1=[(1)−(2)] 1=ln(/)+2/2=1=212=2=1−√∑[()−(,; ,,,)]2∈=(+ℎ)1=212=ここで注意すべき点は、前述のとおり、ブラック・モデルでは金利がマイナスになると算出できなくなる点です。金利がマイナス(F)になった場合、マイナスの値に対数をとることができないため、ln(F/K)の部分が計算できなくなります。なお、上記はスワップションのブラック・モデルですが、国債先物オプションの場合はA=e-rTのケースに相当します(国債先物オプションにおけるブラック・モデルについては服部(2020a)を参照してください)。ここで式の定義上、PayersBlackおよびPayersnormalと書きましたが、前述のとおり、スワップションのプレミアムは1つですし、権利行使価格なども同じ値になります。ノーマル・ボル(σN)とブラック・ボル(σB)の値や動きが異なる理由は、金利の動きに対する想定が異なるためであり、その結果、オプションの公式である(4)あるいは(5)が異なるためです。その意味で、ノーマル・ボル(σN)とブラック・ボル(σB)とは、オプションのプレミアムなどの情報から*13) シカゴ・オプション取引所(CBOE)は、米ドルスワップションに基づくCBOE Interest Rate Swap Volatility Index(ティッカーはSRVIX)を提供しています。このインデックスの詳細や具体的な計算方法はCBOEのウェブサイトに掲載されているFact SheetやWhite Paperを参照してください。*14) Bloombergでは、線形補間やCEVモデルなど他の方法も選択できる仕様になっています。金利モデルを(1)あるいは(2)という想定に基づきボラティリティを解釈しているとみることができます。ちなみに、特定のモデルに基づかないIVも開発されており、これはモデル・フリー・インプライド・ボラティリティと呼ばれます。具体的にはVIXなどでこの考え方は用いられていますが、詳細は服部(2020a)を参照してください。日本国債については日本国債VIXが存在しますが、この場合、国債先物オプションに基づき計算されるため、7年金利の変動を捉えています。米国ではスワップションのデータを用いたモデル・フリー・インプライド・ボラティリティも開発されています*13。4.SABRモデル4.1  スマイルカーブの補間のデフォルトのツールオプションが有する重要な問題としてボラティリティ・スマイルがありますが、スワップションにももちろんスマイルは存在します。スマイルカーブの詳細は服部(2020a)を参照していただきたいですが、スマイルカーブとは、イールドカーブのように、縦軸にIV、横軸に権利行使価格をとることで、IVと権利行使価格の関係を図示することでIVと権利行使価格の関係を直感的に捉えるものでした。スマイルカーブを描く上で、マーケットでクオートされるデータを用いるわけですが、すべての権利行使価格のオプションの価格が市場で見れるわけではないため、スマイルカーブを描くためには、カーブの補間が必要です。スワップションのIVのカーブを補間する際、業界における汎用的なツールとしてSABRと呼ばれるモデルが用いられています。例えば、Bloombergでもスマイルカーブを補間するツールとしてSABRがデフォルトの設定とされていますし、IHS Markit(マークイット)社が提供するデータでもSABRモデルが用いられています*14。そのため、スワップションに係る分析を始める場合、SABRモデルは実務家が必ず目にするモデルといえます。 ファイナンス 2021 Oct.61シリーズ 日本経済を考える 117連載日本経済を 考える

元のページ  ../index.html#65

このブックを見る