ファイナンス 2021年10月号 No.671
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その時の10年金利スワップは0.67%であり、(少々大雑把ですが満期が短いことからフォワード・レートが現在のスポットレートと変わらないことを想定すると)0.67×0.570≒0.398%という形で近似的な関係が確認できます。ちなみに、式(1)と(2)を眺めると、式(3)が成立しそうであることが想像されますが、式(3)はあくまで近似式である点に注意が必要です。この式そのものはCorb(2012)などファイナンスのテキストでも良く紹介される近似式であり、実務でも広く用いられています。ノーマル・ボルとブラック・ボルの関係式について正確な導出はテクニカルであるため省略しますが、導出を知りたい読者はDimitroff et al. (2016)などを参照してください*10。3.2  ノーマルおよびブラック・モデルにおけるオプションの公式(価格式)IVとはモデルを使ってボラティリティを解釈していると記載しましたが、ここではヨーロピアン・タイプのスワップションの公式(価格式)を紹介し、ノーマル・モデルとブラック・モデルに基づいたIVはどのように計算されているかを確認します。スワップションのプレミアムの公式は多くの書籍で紹介されていますが、その導出については大学院レベルのファイナンスの知識が必要になります。ここではその公式を紹介するとともに、IVの計算のイメージを掴むことを趣旨とします。スワップションの公式の導出を知りたい読者は例えばCorb(2012)や木島・藤原(2019)を参照してください。ここではペイヤーズ・スワップションを考えますが、通常の株価や先物を原資産にする場合との違いは、スワップションの権利行使した場合、金利スワップを一定期間にわたり受ける・払うというポジションが生まれるため、行使したあと複数のキャッシュ・フローが生まれる点です。例えば、10年のペイヤーズ・スワップションを行使した場合、10年金利スワップ*10) Corb (2012)では、σN≈F×σLNより良い近似として下記の近似式が紹介されています。 (,)=()(1−2)[1+(1−)2242()+(1−)419204()+∙{1+[(1−)2242()(1−)+14()(1−)/2+2−32242] +=()(1−2)()()=(√1−2+2+−1−)()~((),2(−))≈××(1−224)=[(−)()+√(−)]=1*11) 実務的にはTONAの複利を受け渡しますが、詳細は服部(2020b)を参照してください。*12) 書籍によっては標準正規分布をn(∙)として、 (,)=()(1−2)[1+(1−)2242()+(1−)419204()+⋯]∙((∙{1+[(1−)2242()(1−)+14()(1−)/2+2−32242] +⋯}=()(1−2)()()=(√1−2+2+−1−)()~((),2(−))≈××(1−224)=[(−)()+√(−)]=1 という形で表現するケースもあります。を払うというポジションが生まれるため、向こう10年間にわたり、利払い日ごとに変動金利(無担保コール翌日物金利(TONA)*11やLIBOR)を受け取る一方、固定金利(権利行使価格)を払うというポジションが生まれます。そのため、これらのキャッシュ・フローを割り引くという作業が必要になります。ここでは結論だけ述べますが、ノーマル・モデルに基づくと(式(2)に基づくと)、ペイヤーズ・スワップションのプレミアム(価格)は下記になります(下記の式がノーマル・モデルに基づくスワップションの公式になります)*12。=↔== ≈× =√[1√2−2/2+∙()]=−√=∑(0,)+=+1=[(1)−(2)] 1=ln(/)+2/2=1=212=2=1−√∑[()−(,; ,,,)]2∈=(+ℎ)1=212= (4)ここでdおよびAは下記の通りです(Nは標準正規分布の累積密度関数です)。=↔== ≈× =√[1√2−2/2+∙=−√=∑(0,)+=+1=[(1)−(2)] 1=ln(/)+2/212=1−√∑[()−(,; ,,,)]2∈=(1=↔== ≈× =√[1√2−2/2+∙()]=−√=∑(0,)+=+1=[(1)−(2)] 1=ln(/)+2/2==12=1−√∑[()−(,; ,,,)]2∈=(+=1ここで、Payersnormalはスワップションのプレミアム、Fはフォワード・レート、DFはディスカウント・ファクター、Kは権利行使価格、Tは満期、nは原資産である金利スワップの年限です。これらはマーケットで観察することができる値です。例えば、行使価格が1%の1 year into 10 yearのペイヤーズ・スワップションが市場で取引されていた場合、行使価格は1%、満期は1になりますし、プレミアムやフォワード・レート、ディスカウント・ファクターはその時のマーケットで観測できます。そのため、IVを算出する場合、オプションのプレミアムを式(4)の左辺に入れる一方、その他の情報を右辺にいれます。そのう60 ファイナンス 2021 Oct.連載日本経済を 考える

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