ファイナンス 2021年10月号 No.671
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.htmlスワップション入門(モデル編)―ノーマル(ブラック)・モデルおよびSABRモデルについて―東京大学 公共政策大学院/財務総合政策研究所服部 孝洋*1シリーズ日本経済を考える1.はじめに*1服部(2021)では実務的な側面に焦点をあてて、スワップションの基本的な内容の説明を行いました。同論文ではスワップションから算出したインプライド・ボラティリティ(Implied Volatility, IV)が様々な形で金融市場で用いられていると言及しましたが、読者がBloombergなどでスワップションのIVのデータを取得する場合、モデルを選択しなければなりません。マーケットで用いられるモデルはブラック・モデルとノーマル・モデルであり、モデルの選択によって算出されるIVの値や動きは異なります。そのため、IVを用いる実務家はそれらの違いやその関係がどのようなものであるかを把握しておくべきです。また、スワップションのデータを用いてスマイル・カーブを描く場合、そのカーブの補間のためにも特定のモデルを選択する必要があります。本稿では実務で最も広く用いられているSABR(「セーバー」と読みます)と呼ばれるモデルについて解説を行います。本稿は初学者を想定読者としたうえで、実務上、必要な部分に絞り、できる限り直観的な説明を試みます。その一方、スワップションで用いられるモデルの説明をするため、最低限押さえるべき数式を紹介します。数式の導出や厳密な議論については適時文献を紹介することで補足します。*1) 本稿の作成にあたって、石田良氏、内山朋規教授、中山季之氏、藤原哉氏など様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。2. ブラック・モデルとノーマル・ モデルとは2.1 正規分布と対数正規分布服部(2020a)でブラック・モデル(ブラック76モデル)の説明をしました。ブラック・モデルとは通常のブラック・ショールズ・モデルにおける原資産を先物に適用したモデルでした。このモデルの特徴は先物のリターンが正規分布に従うことを前提としますが、このことは先物価格が対数正規分布に従うことを意味します。図1は正規分布と対数正規分布を比較した図になりますが、この図からわかるとおり、対数正規分布はマイナスの値をとらないという特性を有します。先物の価格はゼロ以下にはなりませんから、これは望ましい性質といえます。実際、国債先物のIVでは服部(2020a)で指摘したとおり、ブラック・モデルが用いられています。図1 対数正規分布と正規分布0確率(密度)<正規分布><対数正規分布>価格(金利)11756 ファイナンス 2021 Oct.連載日本経済を 考える

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