ファイナンス 2021年10月号 No.671
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によってこの力関係が完全に崩れて、これまでの対策では太刀打ちできない大変な状況になっています。しかし、非常に効率・効果の高いワクチンが登場しましたので、このワクチンによって、変異型ウイルスが相手でも、シーソーの「感染収束」の方に何とか傾けることができるのではないかと期待しています。(5)mRNAワクチンmRNAワクチンはiPS細胞とつながりがあります。mRNAワクチンの最初の原理を発見したのはカタリン・カリコ博士で、2008年にmRNA修飾の方法を開発しましたが、全く評価されませんでした。ところが、カタリン・カリコ博士の技術を見たハーバード大学のデリック・ロッシ博士がこれを使って効率よくiPS細胞を作ることに成功し、2010年に報告されました。彼らはiPS細胞にとどまらずに、その後BioNTech社とModerna社という会社を作って、その2社が現在日本で使われているワクチン開発につながりました。この二人の話は、研究の醍醐味と言いますか、そのままiPS細胞の研究をやっていたらワクチンにはつながらなかった。こういう自由な発想を私たちも見習っていきたいと考えています。(6)おわりに私は、5年前に亡くなってしまったラグビーの平尾誠二さんと非常に仲が良く、最後に、彼に「人を叱る時の4つの秘訣」というものを教えてもらいました。「プレーは叱っても人格は責めない」「後で必ずフォローする」「他人と比較しない」「長時間叱らない」というもので、未だに毎日見返しています。皆様にも少しでも参考になればと思います。今、コロナ禍でみんなが集まって写真を撮れないためZoomでの写真で私たちの同僚を紹介しますが、ワクチンの成果で早く、皆がまた集まって集合写真が撮れる日が一日も早く来ることを祈っています。講師略歴山中 伸弥(やまなか しんや)京都大学iPS細胞研究所所長/教授公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団理事長1962年生まれ、東大阪市出身。1987年に神戸大学医学部を卒業後、臨床研修医を経て1993年に大阪市立大学大学院医学研究科博士課程修了(大阪市立大学博士(医学))。その後、米国グラッドストーン研究所博士研究員、奈良先端科学技術大学院大学教授、京都大学再生医科学研究所教授などを歴任し、2010年から現職。2006年にマウスの皮膚細胞から、2007年にはヒトの皮膚細胞から人工多能性幹(iPS)細胞の作製に成功し、新しい研究領域を拓く。これらの功績により、2010年に文化功労者として顕彰されたことに続き、2012年には文化勲章を受章。2012年にノーベル生理学・医学賞受賞。 ファイナンス 2021 Oct.55令和3年度職員トップセミナー 連載セミナー

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