ファイナンス 2021年10月号 No.671
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コラム 経済トレンド88大臣官房総合政策課 深澤 瑛介/中山 晃一/楠原 雅人日本の観光の現状と今後の展望本稿では、外国人旅行客誘致の重要性とマイクロツーリズムの可能性について考察する。日本の観光における方向性と課題・日本人の国内旅行消費額は、経済の成熟化とともに増加してきたが、他方で人口は減少局面に入っており、内需は頭打ちになる可能性が高くなっている(図表1)。外国人旅行客による観光需要の拡大が重要な課題と認識される中で、観光庁は2017年に「新たな観光立国推進基本計画」を策定し、訪日ビザの発行要件緩和や航空ネットワーク拡大等が実施されてきた。・2019年には、外国人旅行客数3,200万人、外国人旅行消費額約4.8兆円と過去最高の数字を記録した。さらには、2030年までの外国人旅行客数6,000万人、外国人旅行消費額15兆円達成が目標として掲げられている(図表2)。・しかしながら、2019年の外国人旅行客の約6割は東京都、大阪府、京都府、千葉県の4都府県を目的地としており(図表3)、京都や浅草といった主要観光地では、外国人旅行客があふれかえり、街の混雑や交通渋滞、騒音等が発生し国内旅行者の足を遠ざけてしまう「オーバーツーリズム」という問題が発生していた。(図表1)日本の人口推移と 日本人国内旅行消費額推移日本人国内旅行消費額(右軸)人口110,000130,000125,000120,000115,00024.020.022.018.016.014.012.0201120122013201420152016201720182019(千人)(兆円)(図表2)外国人旅行客数と 外国人旅行消費額の推移外国人旅行客数外国人旅行消費額(右軸)070,00016.012.014.010.08.06.04.02.00.02011201220132014201520162017201820192030(目標)(千人)(兆円)60,00050,00040,00030,00020,00010,000(図表3)外国人旅行客の目的地(2019年)17.4%16.0%11.9%11.9%42.8%東京都大阪府京都府千葉県その他(出所)観光庁「旅行・観光消費動向調査」、総務省「人口推計」、日本政府観光局「訪日外客数」、観光庁「訪日外国人消費動向調査」新型コロナウイルス感染拡大による打撃・2020年は東京オリンピック・パラリンピックの開催が予定され、2019年以上の外国人旅行客の獲得が期待されていたが、新型コロナウイルス感染拡大以降、外国人旅行客数は激減し、2020年は412万人と前年比87.1%減となった。また、2020年の日本人国内宿泊旅行者数も、1億6,070万人と前年比で48.4%減少した。・急減した観光需要の喚起策として「GoToトラベル」事業が実施されたものの(図表4)、感染再拡大により事業は停止されており、結果的に2020年の日本国内における旅行消費額は、10.0兆円と、2019年の半分以下にまで落ち込んだ。・感染拡大以降、宿泊施設の稼働率は大きく低下し(図表5)、2020年1年間で宿泊業者の倒産は2019年対比約1.5倍の118件と大幅に増加した(図表6)。また、観光庁の「主要旅行業者の旅行取扱状況速報」によると、主要旅行業者の旅行商品取扱高は2019年対比69.9%減の1.46兆円まで落ち込むなど、観光業界全体が苦境に立たされている。(図表4)日本人国内宿泊旅行者数と GoToトラベル事業利用者数(2020年)04,0003,5003,0002,5002,0001,5001,000500123456789101112(千人)日本人国内宿泊旅行者うちGoToトラベル事業利用者(図表5)宿泊施設タイプ別の 客室稼働率推移20902011201220132014201520162017201820192020(%)807060504030全体旅館リゾートホテルビジネスホテルシティホテル(図表6)宿泊業の年間倒産件数023858385817878751180140120100806040202011201220132014201520162017201820192020(件)(出所)観光庁「宿泊旅行統計調査」、東京商工リサーチ「倒産月報」42 ファイナンス 2021 Oct.連載経済 トレンド

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