ファイナンス 2021年10月号 No.671
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ら自身の目で確かめてからでした。」という。鉄で補強すれば耐久性が増すと思うのは素人。西岡棟梁は、「耐久性と言っても、私は五十年、百年先を問題にしているのではない。木だけなら千年もつものを、鉄を使って八百年、五百年に減ずることはないではないか。」という。木造建築の修理は大きく分けて、維持修理と根本修理がある。屋根葺き替えや塗装修理などは維持修理、根本修理は建物本体の修理をいう。根本修理は一から組み上げるので、新築と比べても、「拘束される諸条件が多く、かえって複雑で高レベルな建築行為の場合が多い」という。西岡棟梁は、「解体修理は、各建物にまず須屋根をかける。そうして、屋根瓦を一枚一枚はずし、屋根の土を取り、下の木をはずし、さらに垂木に、壁にと、段取りを追って行う。その間に、木の組み方、構造の特徴なども最大漏らさず記録しておく。腐ったりいたみのひどい木はとりかえるしかない」、「法隆寺には、国宝、重要文化財だけでも何十棟という各時代の建物がそろっている。世界最古の五重塔にしても、各時代に修理され、その木が加わっている。したがって解体修理は、江戸、桃山の瓦、慶長の垂木、さらに室町、南北朝、鎌倉、平安、奈良へと、時代をさかのぼり、最後に飛鳥建築にたどり着く、という手順になる。」と語る。タイムマシーンのように過去に遡り、「飛鳥の工人とも対話しながら」クギ穴の形や軒先の雨だれの跡から見たことがない建物の形や大きさを推定して復元。シャーロックホームズのような匠の技。人材の承継について。「宮大工の後継者は、腕がなければ、血縁者でもはず」す、「-技法に世襲なし。なのである。」という西岡棟梁は、法隆寺の大修理の後、薬師寺復興も手掛け「薬師寺は西塔に続いて、伽藍全体を復興することになった。…若い人たちが育っているのが、なんともうれしい。いや、今は若い方が多くなっている。堂塔を実際に手掛けて、自信もついてきたにちがいない。」という。西岡棟梁は西塔完成の年に日本建築学会賞受賞、「ほかにもいくつか賞を頂戴し、勢い講演依頼などが増えた。…依頼が来るということは、時代が「木の文化」に目を向け始めた証拠でもあろう…-山を育てる。これを強調している。…木造、木の文化を語るなら、まず山を緑にしてからである。それも、早く太くの造林ではなく、山全体に自然のままの強い木を育ててほしい。将来、必ず必要になる樹齢千年以上の木を今から準備して、…とも言っている。木の文化は、自然を守る文化からしか生まれない。木を活かすには、自然を生かさねばならず、自然を生かすには、自然の中で生きようとする人間の心がなくてはならない。その心とは、永遠なるものへの思いである。」と平成元年に日本経済新聞の「私の履歴書」で語ったが、さて今はどうだろうかそんな中で、2020年12月には、そのような日本建築を古代から途絶えることなく伝統を受け継ぎながら,工夫を重ねて発展してきた技術「伝統建築工匠の技」がユネスコの無形文化遺産に決定。次回は、明治以降に欧米の建築を取り入れた近現代の日本の建築や最近の国際建築展をご紹介。(主な参考文献)Brutus Casa 2021 vol249「新・建築を巡る旅。」、マガジンハウス、2021年隈研吾建築都市設計事務所のWebsite https://kkaa.co.jp/「隈研吾という身体 自らを語る」、NTT出版、2018年隈研吾展 | 東京国立近代美術館(momat.go.jp)ブルーノ・タウト著 森儁郎訳、「ニッポン」、講談社、1991年世界遺産 文化遺産オンライン(nii.ac.jp)Michelin Green Guide Japon 改訂第4版東京国立博物館 - 展示 日本の考古・特別展(平成館) 聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」 (tnm.jp)村田健一「伝統木造建築を読み解く」、学芸出版社、2006年西岡常一、「宮大工棟梁・西岡常一「口伝」の重み」、日本経済新聞社、2008年ルイス・フロイス「完訳フロイス日本史〈3〉安土城と本能寺の変―織田信長篇(3)」、中公文庫、2000年案内役は「暴れん坊将軍」松平健さん 姫路城で有料音声ガイド導入|姫路|神戸新聞NEXT(kobe-np.co.jp)三島由紀夫、「金閣寺」、新潮社、2020年「清水の舞台から…」 無茶な飛び降り、実は願掛け|NIKKEI STYLE世界遺産ひだ白川郷 | 白川郷観光情報 (shirakawa-go.org)宮島対岸の旅館 庭園の宿 石亭 / トップページ (sekitei.to)藤森昭信、藤塚光正、「日本木造遺産 千年の建築を旅する」、2014年、世界文化社高木市之助,沼沢竜雄 編「平家物語」中興館,1925年https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1020150Sukiya living:the journal of Japanese gardening http://gardenrankings.com/『詳説日本史図録』(第六版)、2015年、山川出版社日本建築学会編、「日本建築史図集」(新訂版)、1980年、彰国社「特別展 春日大社 千年の至宝」、2017年、編集 東京国立博物館、春日大社、NHK、NHKプロモーション、読売新聞「国宝重要文化財大全11 建造物上巻」、1998年、毎日新聞社「特別展 江戸を開いた天下人 徳川家康の遺愛品 伝世品でみる家康の文化面」、2011年、三井記念美術館新刊吾妻鏡.巻9 - 国立国会図書館デジタルコレクション(ndl.go.jp)36 ファイナンス 2021 Oct.日本の建築(法隆寺から新国立競技場まで)(上)SPOT

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