ファイナンス 2021年10月号 No.671
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1はじめにー隈研吾この夏、世界中の人がオリンピック、パラリンピック放送で毎日見ていた新国立競技場。設計者隈研吾(1954-)は、「《新国立競技場》は、出来上がった後のエイジングの仕方が、一番大事です。周りの環境である杜に≪新国立競技場≫の木の色もだんだん馴染んでいくことでしょう。オリンピックよりも後の世代に、市民が楽しむことができる競技場です。…基本的に、日常生活の中で、多くの人がこの建物を使うわけですから、オリンピックよりも後の楽しみ方が大事です。」という。隈研吾設計の新国立競技場隈研吾は、前回の1964年東京オリンピック時に見た丹下健三の国立屋内総合競技場に衝撃を受け、幼少期より建築家を志す。その土地の環境、文化に溶け込む建築を目指し、ヒューマンスケールのやさしく、やわらかなデザインを提案。また、コンクリートや鉄に代わる新しい素材の探求を通じて、工業化社会の後の建築のあり方を追求。これまで20か国超で設計し、日本建築学会賞、毎日芸術賞、芸術選奨文部科学大臣賞、国際木の建築賞(フィンランド)、国際石の建築賞(イタリア)等、受賞多数。最近だと昨年の紅白歌合戦で人気ユニットYOASOBIがテレビ初登場した角川武蔵野ミュージアムや、山手線で49年ぶりの新駅、高輪ゲートウェー駅なども設計。「旅行カバン一つとからだ一つ手ぶらで」国内外を飛び回り、「スケッチで描けることには限りがある」とケガで「右手が動かなくなったついでにスケッチもやめた。」という隈研吾の作品には木を使ったやわらかなデザインも多い。住んでいる神楽坂にはたくさんネコが住んでいたという隈健吾。東京国立近代美術館で9月まで開催の「新しい公共性をつくるためのネコの5原則」展では世界各国の隈作品の中から公共性の高い68件の建築を隈が公共空間を考えるにあたり、参考とするというネコの視点から街を見直し。7か国の建築群が世界文化遺産に登録された近代建築の巨匠、ル・コルビジェの「近代建築5原則」というのがあるらしいが、ここでは「隈が考える5原則「孔」「粒子」「斜め」「やわらかい」「時間」に分類」して紹介。やり方も柔らかく、「僕の場合は、自分が実現するわけだけれど、相手の立場に自分が立つというやり方です。海外でプロジェクトを進めるうえで、日本式を押し付けるのではなく、海外での現場のやり方を活かす」という。ここでは伝統的な木造建築から世界的にも評価されている日本の現代建築までをご紹介。2伝統建築亡命中の1933年から3年間日本に滞在し、桂離宮、伊勢神宮をはじめ日本の美を世界に紹介し、我が国の美意識にも多大な影響を与えたドイツの世界的建築家、ブルーノ・タウトは、桂離宮について、「これは世界に二つ無きものである。それは純粋の日本であり、しかも、かかる純粋の日本が日光と同時代に作られたことからしても、驚嘆に値する」という。伝統的な建築として、何を挙げるかは実に悩ましいが、1993年の法隆寺、姫路城以来、伝統建築が相次いで元国際交流基金 吾郷 俊樹日本の建築(法隆寺から新国立競技場まで)(上)28 ファイナンス 2021 Oct.SPOT

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