ファイナンス 2021年10月号 No.671
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(写真2)ヴェラン連帯保健大臣に報告書を提出するクラリス教授(右)(Ludovic Pereira / Ministère des Solidarités et de la Santé)d)病院・診療所連携など地域医療機能強化この一年の間に、地域医療専門職コミュニティー(la communauté professionnelle territoriale de santé(CPTS))*43が全国で100増えて172拠点、多機能医療院(les maisons de santé pluri-professionnelles)は400増えて1,889拠点となった。2021年5月には制度面の整備も進み、CPTSなどの地域医療拠点が、治療へのアクセスの改善、様々な医療専門職間をつないだ治療経路の確立、治療の質と適切性の向上などの「サービス」を提供する場合、それに従事する医療関係者に対するサービス対価報酬を独立に決定できるようになった。ガバナンス改革についてはトップダウンの各種仕掛けは整ってきているが、現場での実施はまだまだこれからの感がある。(エ)医療分野におけるデジタル化の推進セギュール報告書の段階では柱は四つで、デジタル関係はそれぞれの柱に横断するテーマとして取り上げられていたが、フォローアップ報告書段階では、デジタル化の推進を第五の独立の柱として外だししている*44。*43) 地域内の医師、看護師、薬剤師、介護士などが恒常的に連携するネットワーク体制を構築し、予約不要の診療、病院と診療所の連携、在宅医療の推進などに当たるための仕組み。参加する医療関係者が医療プロジェクトを立てた上で、当該医療関係者とARS(地域圏医療庁)が契約を締結することで拠点化される。「私の保健2022」においては、2022年までに全国1000拠点開設が目標とされている。https://www.ars.sante.fr/les-communautes-professionnelles-territoriales-de-sante*44) さらにはこの分野の取組みを詳細に紹介した冊子を別途作成・公表している。https://esante.gouv.fr/sites/default/files/media_entity/documents/Segur_ChantierD_DocCommun_VF.pdf*45) フランス政府が既に開発・運用している共有型電子カルテ(DMP)が「医療わたくしサイト」のアプリの一つとなる模様。DMPについては、2007年頃から本格始動し、これまで数十億ユーロの財政資源が投入されてきたが、関係者へのインタビューなどによると、普及率は一割前後で、アカウント保有者も往々にして中身は空っぽという問題の多いシステムにとどまっている。*46) https://solidarites-sante.gouv.fr/actualites/presse/communiques-de-presse/article/lancement-operationnel-du-volet-numerique-du-segur-de-la-sante利用者サイドで言えば、カルテ*45や処方箋等がデジタル化された保護情報を担当の医師・医療介護施設・薬局などと共有できる「医療わたくしサイト(Mon espace santé)」が2022年1月から全国民向けにスタートすることが目玉施策である。こうした利用者を中心に据えた医療情報のデジタル化のための取組みに、20億ユーロ程度(再掲)が確保されることとなっている*46。5おわりに(医療提供体制改革編・小括)治療の質の改善、医療ガバナンス改革、病院・診療所連携等を通じた地域医療機能強化といった医療提供体制改革は、進捗を確認し、成果が発現するまでに数年の単位で時間がかかり得るものである。クリシェ(cliché)の類となってしまうが、コロナ危機をおして敢行された「セギュール医療全体会議」が、フランスの医療提供体制に最終的にどのような実際上の変革をもたらすのか、その結論と進展からどのような示唆と教訓が引き出せるのか、確定するまでには今しばらく待たなければならない。それでも、「おわりに」と称して、キーワードごとに一連の医療提供体制改革の取組み・動向を敢えて小括してみたい。(1)コロナ危機という逆風の利用コロナ危機発生とセギュール医療全体会議を経過することで、いつの間にか医療従事者のストライキは解消し、政府側は看護師・パラメディカル等の報酬引上げというセギュール報告書の「給付増」部分でそれに応えている。また、2020年秋以降、政府は医療従事者の待遇改善策を折に触れて追加してきている。フランスでは、第一波から第三波にかけて蘇生病床占有率は高水準で推移し、医療従事者の疲弊・負担感などもときに報道されている。それでも足元ではフランス政府と看護師・パラメディカル等の労働組合との歩み寄26 ファイナンス 2021 Oct.SPOT

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