ファイナンス 2021年10月号 No.671
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(イ)医療費支出に関連する改革a)病院の診療報酬改革包括払いの割合や医療の質に対する報酬評価の割合を高める改革が、まずは嚆矢として救急科を対象に、2021年から実施されている。これに引き続き精神科、リハビリ科、近接病院についても、同様の観点に立って、T2A(出来高払い)の割合を縮小し、医療の質に対する評価割合を引き上げる改革が、2022年1月に実施される予定となっている。一年前のセギュール報告書に比べると、既に精神科、リハビリ科、近接病院にかかる実施時期が遅延してきていることに加えて、急性期医療、周産期医療、慢性期医療については記述が消えている。コロナ危機発生時に、病院等の受け取る診療報酬について2019年の水準を臨時的に保証する概算特例を入れた*36ことが改革にとってはブレーキとなったのかもしれないが、いずれにせよ、成果と後退がない交ぜとなっていることが透けるようなフォローアップ内容となっている。政策追跡委員会資料においても、病院の診療報酬にかかる改革の達成度は「5合目」と自己評価されている。b)ONDAM改革複数年度にわたり戦略的に医療費を支出できるように、ONDAM(疾病保険全国支出目標)についても改革が進められている。改革の内容検討については疾病保険未来高等評議会(Haut conseil pour l’avenir de l’assurance maladie(HCAAM))に2020年9月に諮問されており、2021年春には、改革提言の答申がとりまとめられている*37。2021年秋には2022年社会保障予算法案が議会提出をされるが、その中では、HCAAM(疾病保険未来高等評議会)の提言が予算法案の形で具体化される予*36) https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT000041853566*37) https://www.securite-sociale.fr/home/hcaam/zone-main-content/rapports-et-avis-1/avis-du-hcaam-sur-la-regulation.html。提言は19項目からなっており、主なものは以下のとおり。 ● 支出目標、医療活動、財源に関する例えば5年展望を、関係省庁間調整を経て策定する。 ● 5年展望には、その実現に必要となる医療人材の見通しを盛り込む。 ● 医療費の伸びの要因を分解・特定し、予算編成段階で医療債務の累積を回避するための直接的な効率化策と間接的な保健施策を特定する。 ●  技術的困難さは予想されるものの、ONDAMに基づく支出が、どのような複数年度にわたる医療政策を可能とし、どのように国民の保健衛生状態を改善するかを示すプレゼンテーション資料を添付する。 ● ONDAM対象経費を、医療施設の性質などセクターごとに分解し、赤字セクターを明確にする。 ●  単年度ごとの支出目標の外枠として、例えば5年分の白紙の別枠を設けておく。いずれにせよ単年度の目標が超過した場合には関係省庁が集団的に対応策を講じる。これにより単年度目標が過度に硬直的となりすぎることを回避する一方で、複数年度にわたる財政コントロールは強化される。 ●  特定の診療領域(例えば慢性腎不全、腫瘍、精神保健、糖尿病など)においてサンプル的に複数年度計画の進捗や計画からの乖離要因などを追跡し、場合によっては意思決定の迅速化や問題解決方法を提供する職種横断的・公的な観察チームを編成する。*38) https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT000043261453*39) https://www.vie-publique.fr/loi/277465-loi-rist-26-avril-2021-ameliorer-le-systeme-de-sante-par-la-conance*40) また同法によって、労使間のリスク要因の除去、各種係争の回避、男女間の平等の確保などの観点から、病院の施設運営規約の中に参加型のガバナンス・マネジメント目標を盛り込むこととされている。*41) https://snphare.fr/assets/media/guide.pdf*42) https://www.legaro.fr/conjoncture/grace-au-segur-une-inrmiere-experimentee-gagne-3398-euros-nets-par-mois-20210720定となっている。政策追跡委員会の資料において、ONDAM改革の達成度は「7.5合目」と自己評価されている。(ウ)医療ガバナンス改革a)病院内の意思決定における医療職の関与の強化2021年3月には「地域の病院グループと病院の意思決定の医療化に関するオルドナンス」*38が発出され、診療科の長が互選する医療委員会議長(président de la commission médicale d’établissement)の院内意思決定への関与を強化することとされた。病院内部の組織改編や診療科の責任者の指名などにおいて、医療職である医療委員会議長が行政職の病院長と協働して意思決定をすることなどが想定されている。b)病院ガバナンスへの多様な声の反映2021年4月には「信頼と簡素化による保健システム改善のための法律」*39が議員立法として成立し、病院における合議制の管理理事会に、パラメディカル、医学生、利用者などの代表者が加わることとなった*40。c)病院向けのガバナンス指南書の刊行病院ガバナンスのテーマについては、リヨン市のホスピスで医療委員会議長を務めるオリヴィエ・クラリス(Olivier Claris)教授をヘッドとする研究グループが連帯保健省からの委託によって討議・検討・報告書編纂を行ってきたが、2021年7月にはその内容を、病院向けのガバナンス指南書「より良い治療のためのより良いマネージメント(Mieux manager pour mieux soigner)*41」として連帯保健省が刊行した。同指南書は、ヴェラン大臣によれば、今後、全国の病院に配布される予定となっている*42。 ファイナンス 2021 Oct.25コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方SPOT

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