ファイナンス 2021年10月号 No.671
27/94

会(le comité de suivi)」を立ち上げた*25。この委員会*26は33項目の報告書事項の進捗を監督することとされ、四半期に一度開催されている(本稿執筆時までに四回開催)*27。(1)一周年フォローアップ報告書(総論)2021年7月には、セギュール報告書を得てから一周年ということもあり、第四回政策追跡委員会開催に合わせて、連帯保健省は改革の進捗状況に関するフォローアップ報告書を作成・公表している*28。そのタイミングで、ヴェラン連帯保健大臣は、「提言項目の75%は実施済みか仕掛中」と述べている*29。フォローアップ報告書を見ると、やはり看護師・パラメディカル等の報酬引上げ、保健分野への投資のための枠組み、要望ベースによる病床の開設などの財政措置と直結する項目の進捗が速いことがわかる*30。一方で、フォローアップ報告書には一年を経ての到達点と今後の課題も虚心坦懐に記述されている。病院におけるグループ診療、病院ガバナンスの改善、近接病院の普及、遠隔診療などについては、「お役所的な各種文書の作成は進捗したが、実際に医療関係者の間でそれを実施するフェーズへと移っていかなければならない」と分析している。なお、フォローアップ報告書に明示的に記載はないものの、医師の負担軽減を図り、病院の対応能力を向上させるという観点から盛り込まれていた項目である「中間的医療職の創設」(項目7)については、医師会(l’Ordre des médicins)等の反対により頓挫するなど*31、この段階で既に不成就となっている項目もある。*25) https://solidarites-sante.gouv.fr/actualites/presse/communiques-de-presse/article/olivier-veran-installation-comite-de-suivi-segur-de-la-sante*26) 政策追跡委員会にセギュール報告書に署名をしなかったCGTが招かれないことに関して訴訟に発展した。国務院は11月25日、CGT勝訴としたパリ行政裁判所の判決を急速審理手続によって棄却している。(Conseil d'État, Juge des référés, 25/11/2020, 445986, Inédit au recueil Lebon)*27) 第二回(2020年12月)の資料はhttps://solidarites-sante.gouv.fr/actualites/presse/communiques-de-presse/article/olivier-veran-reunit-le-comite-de-suivi-du-segur-de-la-sante。第一回(2020年9月)の資料はhttps://syngof.fr/wp-content/uploads/2020/09/Comite%CC%81-de-suivi-Se%CC%81gur-23-09-2020.pdf、第四回(2021年7月)の資料はhttps://snohp.fr/wp-content/uploads/2021/07/COSUI_2021-07-20-version-diffusion.pdf。第一回、第四回の資料は、連帯保健省のクレジットが入っているPDFファイルではあるが、連帯保健省のホームページからは見つけることはできない。参照しているホームページは、それぞれ、産婦人科医労働組合、病院歯科全国労働組合のものであり、おそらくは政策追跡委員会に出席した関係者として、配布資料を転載したものと考えられる。*28) https://solidarites-sante.gouv.fr/IMG/pdf/dp_-_premier_anniversaire_du_segur_de_la_sante.pdf*29) https://www.legaro.fr/conjoncture/grace-au-segur-une-inrmiere-experimentee-gagne-3398-euros-nets-par-mois-20210720*30) とはいえ、報酬引上げ関連でも、基礎となる看護師の昇進制度の構築、残業手当支給のための規制の例外設定、治療の質向上等のためのチーム医療体制構築(月100ユーロ相当の「チーム医療体制手当」とセットの項目)などについては、各地域の大学病院センターを中心とする医療圏ごとに労使交渉・合意が必要となる。例えば、公衆衛生危機に柔軟に対応しようとすると、手かせ足かせとなり得ることが強く意識された残業時間規制に関しては、あまり具体的な進展は報告されていない。フォローアップ報告書においても「次年度の優先課題」のところに抽象的に記載されているだけである。*31) 中間的医療職の創設については、脚注39にある「信頼と簡素化による保健システム改善のための法律」の当初案に盛り込まれていたが、医師会等の反対により議会審議過程で削除されている。審議過程・審議結果などを公表する政府のホームページにおいて「医師会と自由開業医労働組合の反対によりこの条項は削除された。」と明示的に記載されている点はフランス政治過程の一側面を表すものとして興味深い。*32) https://solidarites-sante.gouv.fr/actualites/presse/dossiers-de-presse/article/segur-de-la-sante-relancer-les-investissements-en-sante(2)一周年フォローアップ報告書(各論)フォローアップ報告書は一年前の提言を各論として網羅的に検証しているが、ここでは上記1において注目点とした点を主になぞる形で、サンプル的にフォローアップ内容を紹介したい。(ア)保健分野への投資a)対象施設ごとの配分の具体化2021年3月には10年間にわたり段階的に支出される190億ユーロの「投資部分」の配分の詳細が公表されている*32。65億ユーロは病院の債務の肩代わりに回され、90億ユーロ程度は医療施設への投資に充てられるとされている。EHPADなどの介護施設には、受入可能人数増や介護サービスの向上に向けて15億ユーロが振り向けられる。最後に20億ユーロ程度がIT投資に充てられる。190億ユーロという総額はセギュール報告書と同じだが、それから8カ月が経過して内訳(のプレゼンテーション)が変更されている。単なる債務肩代わりという後向きの割合を減らし、未来志向の投資部分を増額する形となっている。b)地域ごとの配分の具体化また190億ユーロのうち145億ユーロについては、地域圏に対してARS(地域圏医療庁)を通じて配分することも同時に公表され、セギュール医療全体会議で示された地域医療重視の姿勢や分権化の方向性を具現化する形となっている。(イメージ3)c)態勢整備a)、b)のような配分額の具体化と並行する形で、投資プロジェクトの集中を防止し、地域の実情に応じて ファイナンス 2021 Oct.23コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方SPOT

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る