ファイナンス 2021年10月号 No.671
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と言われていた。しかしながら、カステックス首相はこの問題の検討をヌーヴェルアキテーヌ地域圏医療庁の元事務局長ミシェル・ラフォルキャドゥ(Michel Laforcade)氏をヘッドとするワーキンググループに諮問しており、その成果があらわれるかたちで、2021年に入ると月額183ユーロ相当の報酬引上げを福祉部門の大部分にも拡大する決定がなされた*20。9万人程度が裨益し、2020年のセギュール報告書とりまとめ段階に見込まれていた予算規模に対して5億ユーロほど所要額が増加する予定となっている。*213一連の政策対応の財政的影響コロナ危機の前後を比較すると、もちろん社会保障財政は悪化しているが、これには、イ)新型コロナウイルス感染拡大に直接的に緊急対応するための支出拡大、ロ)コロナ危機に伴う経済減速を背景とする保険料等の収入の減少、ハ)セギュール報告書関連項目の実施、と主に三つの要因が存する。ハ)セギュール報告書関連項目がどのような財政規模だったのかは表2、社会保障会計の収支がコロナ危機によってどのような要因で悪化したかは図1*22のとおりである。*23イ)の緊急対応の支出やロ)保険料等の収入の減少に比べればハ)のセギュール報告書関連項目の財政的インパクトは短期的には最大の悪化要因ではない。ただし、セギュール報告書関連による収支悪化は恒久的なものであり、平時の医療費全体2000億ユーロ程度に対して4%~5%程度の規模となることを踏まえれば、決して無視できるものでもない。セギュール報告書関連項目を盛り込んだ2021年社会保障予算法案の議会審議において、右派共和党は「これらはすべて、我々の子供たちへの負債の付け回*20) https://www.gouvernement.fr/partage/12305-accords-pour-une-revalorisation-salariale-des-professionnels-soignants-des-etablissements-et。具体的には、2021年2月に、既に報酬引上げの対象となっている病院等の施設に付属する障害者施設やその他の福祉施設の福祉従事者にも報酬引上げが拡大されることが政労使で合意され(政府、使用者たるフランス病院連盟(FHF)、労働組合(CGT、FO、CFDT、UNSA)間の合意)、2021年6月から適用されている。2021年5月には、独立系の福祉施設の福祉従事者も対象とすることが合意され(2月合意の当事者のうち、CGTのみ参加せず)、こちらは2021年10月から適用開始予定である。*21) このほか、2021年9月末に公表された2022年社会保障予算法案のプレス向け資料において、俸給表カテゴリーCに属する医療福祉関係者や助産師等に対する報酬引上げ措置など、5.6億ユーロ規模の追加策が公表されている(表2参照)。*22) https://www.securite-sociale.fr/les/live/sites/SSFR/les/medias/HCFIPS/2021/HCFIPS%20-%202021%20-%20Etat%20des%20lieux%20du%20nancement%20de%20la%20protection%20sociale.pdf 2021年2月にこの数字が公表された段階では2020年の財政収支が490億ユーロの赤字と見込まれていることに注意。その約1か月に、結局は同年の収支赤字は386億ユーロにとどまることが連帯保健省から公表される(https://solidarites-sante.gouv.fr/IMG/pdf/210315_-_cp_-_o.veran_-_o.dussopt_-_compte_de_la_securite_sociale_en_2020.pdf)。その意味でこの2月段階の社会保障財政高等評議会の分析は古いデータに基づくものであるが、要因分解としては最新であるためここに紹介する。*23) https://solidarites-sante.gouv.fr/IMG/pdf/dp-plfss-2022-24-09-2021.pdf*24) https://www.lefigaro.fr/economie/l-assemblee-se-prononce-sur-un-budget-de-la-secu-greve-d-incertitudes-face-au-covid-20201027しに過ぎない」と批判し、左派社会党は「報酬引上げの水準は最低レベルのもので、及第点にはほど遠い」と批判をしている*24。4セギュール報告書の改革項目の進展とフォローアップ報酬引上げと両輪を成すはずの諸改革については、関係者による中期的な不断の努力を必要とするものも多く、フランス政府は、セギュール医療全体会議の議長を務めたニコル・ノタ氏を横滑りで委員長に据える形でセギュール医療全体会議に関する「政策追跡委員(図1)コロナ危機前後での社会保障会計収支見通しの悪化幅とその要因-114-302639-385-231-171-175-11-70-81-82-600-500-400-300-200-10010002020年436億ユーロの悪化2021年312億ユーロの悪化2022年220億ユーロの悪化2023年223億ユーロの悪化(出典)フランス社会保障財政高等評議会感染症・経済危機の支出への影響感染症・経済危機の収入への影響セギュール全体会議項目の影響その他(表2)セギュール医療全体会議の報告書項目の財政的影響(単位:億ユーロ)2022年社会保障予算法案 ベースでの全体所要額第一の 柱ベースとなる報酬引上げ(いわゆる「月額183ユーロ」。「一階部分」)65.52平均35ユーロの魅力向上策(勤続年数に応じた俸給引上げ。「二階部分」)8.02医師に関する報酬引上げ5.57治療の質及び労働時間の評価8.51福祉部門への報酬引上げの対象拡大(ラフォルキャドゥ合意関係)5.35俸給表カテゴリーCに属する医療福祉関係者に対する報酬引上げ措置 等5.62第二の 柱福祉施設における設備・装備向上等(5年)5.50優先的病院プロジェクト(5年)5.00IT化促進(3年)6.80その他2.60第四の 柱遠隔診療、診療アクセスサービス(SAS)、不平等解消、障害者の診療へのアクセス 等7.18合計125.67(出典)2022年社会保障予算法案プレス向け資料*2322 ファイナンス 2021 Oct.SPOT

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