ファイナンス 2021年10月号 No.671
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報酬引上げに絡んで、以下に見るように小刻みに追加策を講じるなど、政策の再調整を迫られている。(1)報酬引上げの前倒し実施報酬引上げ(例えば公立病院の看護師で月額183ユーロ規模)は二段階で実施することとされていた。このうち90ユーロ分については2020年9月から実施されていた。一方、第二弾、残りの93ユーロに相当する部分については、セギュール医療全体会議の合意上は、2021年3月からの実施とされていた。2020年10月中旬の憂慮すべき第二波を受け、セギュール報告書に署名しなかった労働組合であるCGT、SUDなどが「セギュール医療全体会議の合意内容は不十分」、「当初要求どおり月額300ユーロを要求」として新たなストライキを呼びかける動きを見せた*14。このタイミングで、カステックス首相は、残りの月93ユーロ部分についても年内前倒し実施を公表した*15。*16(2)報酬本体以外の待遇改善策追加2020年10月21日には、医療従事者向けの3か月時限措置(10月~12月)として、以下の待遇改善策が公表された*17。・超過勤務手当5割増(例えばEHPADで働く中堅の補助ソーシャルワーカーの場合、時間当たり手当が12.85ユーロから19,27ユーロに割増)・取得しなかった休暇の買取措置(政府は「医療関係者によっては13か月目の給与を手にするのと同等だ」とプレゼンテーション)・ARS(地域圏医療庁)を通じた1億ユーロ規模の各種支援(他の医療施設に応援要員として勤務する場合の移動費用・ホテルコスト、休日勤務の場合の子の監護費用、院内保育所の利用料などの助成)*14) https://www.legaro.fr/social/les-soignants-en-greve-contre-les-accords-du-segur-20201014*15) 10月21日の閣議において、カステックス首相が前週に予告した報酬引上げの第二弾の年内前倒し実施を正式に決定している。https://www.gouvernement.fr/conseil-des-ministres/2020-10-21#le-covid-19*16) 結局、報酬引上げの第二弾は2020年12月1日に前倒し実施された。その際、医師を対象とした「公的サービスへの排他的関与手当(IESPE)」の引上げの第二弾も2021年3月から2020年12月1日に前倒すことが決定された。https://www.service-public.fr/particuliers/actualites/A14416*17) https://www.gouvernement.fr/conseil-des-ministres/2020-10-21#le-covid-19*18) https://solidarites-sante.gouv.fr/actualites/presse/dossiers-de-presse/article/segur-de-la-sante-revalorisation-des-carrieres*19) キャリアの最終盤の俸給額の引上げ幅が大きくなっており、これは「年金の計算が退職前6か月の報酬をベースに決定することに鑑みれば、長期の勤労意欲を確保していく上では重要なポイント」と説明されている。(3)勤続年数に応じた俸給引上げの具体化2021年4月には、ヴェラン連帯保健大臣が医療従事者の勤続年数に応じた俸給表上の報酬引上げの具体的内容を公表した。いわゆる「月額183ユーロ」の報酬引上げを「一階部分」とするのであれば、この勤続年数に応じた俸給引上げは「二階部分」に相当するものである。項目としてはセギュール報告書の一部を成すが、実施に移すには、別途労働組合との合意が必要だった*18。実施は2021年10月から段階的になされ、50万人超の医療従事者が裨益する見通しとなっている。勤続年数に応じて累進的になっており、例えば一般的な治療行為に従事する看護師の例では、勤続1年の者で月額+107ユーロ、勤続5年で同+152ユーロ、勤続20年で同+278ユーロ、キャリアの最終局面では同+353ユーロなどとなっている*19。(4)報酬引上げの対象拡大(写真1)ミシェル・ラフォルキャドゥ氏(ARS Nouvelle-Aquitaine)セギュール医療全体会議の合意に含まれる報酬引上げの対象は、2020年の年内は公私の病院やEHPADという介護施設に限定されていた。その他の福祉部門に関する報酬問題は先送りされ、「セギュール医療全体会議の忘れ物(les oubliés du Ségur de la santé)」 ファイナンス 2021 Oct.21コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方SPOT

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