ファイナンス 2021年10月号 No.671
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「医療提供体制改革編・上」においては、世間の注目を集めた看護師・パラメディカル等の報酬引上げの政治的決着までを見た。「下」においては、その他の論点を含めたセギュール医療全体会議の結論、今日に至るまでの経過や財政的影響を見る。専門的で地味な論点も多いが、改革が全体としてどのような歩みをたどっているかを見てみたい。1セギュール医療全体会議の結論 (セギュール報告書)セギュール医療全体会議は50日に及ぶ議論がなされ、90団体、約12万人の関係者が参画、100回の個別交渉、200回の地域での話合いが行われた。看護師・パラメディカル等の報酬引上げの決着から周回遅れとなる2020年7月21日に、合意事項を詳細な文書(synthèse)にした報告書がまとめられ*1、閉幕した。合意事項の詳細は表1に示すように、キックオフした際に提示された四つの柱それぞれにつき10項目程度ずつ、合計33項目からなる。看護師・パラメディカル等の報酬引上げ(項目1、2、3)以外では、以下の三点にまとめられる「大ダマ」が注目に値しよう。(1) 保健分野への投資(項目9、10、12、14、16、17)第一に保健分野への投資を充実強化することが謳われている。2018年に策定された「私の保健2022」は、地域に*1) https://solidarites-sante.gouv.fr/systeme-de-sante-et-medico-social/segur-de-la-sante-les-conclusions/*2) なお、後述するようにこの金額の内訳や投資期間に関する説明はその後変遷していく。*3) 看護師・パラメディカル等の報酬引上げ(82億ユーロ)については一般的な社会保障財政法に反映されている。一方130億ユーロの公立病院債務肩代わりについては、コロナ対応に関連する総額1360億ユーロの債務の一環として、社会保障債務返済機構(caisse d’amortissement de la dette de la sécurité sociale)に移管されることとなった。60億ユーロの投資資金については、その後の2020年9月3日に公表された、総額1000億ユーロ規模の再興計画である「フランス再興(France Relance)」に盛り込まれ、その関連予算として計上されることとなった。*4) このほか、投資関係では、一定の投資案件の審査・決定権限の地方への移管など地方や現場の権限を強化する方向性も打ち出された。医療投資を審査する中央機関(Conseil national de l’investissement en santé)については、地方議員の参画や審査対象の限定(公的な基金から支出される案件か1億ユーロ超の大型案件など)といったしばりをかけることが盛り込まれた。おける病院・診療所連携ネットワークの強化や治療の質向上に向けた診療報酬の改革に重きがおかれ、保健分野への投資に関しては周縁的論点との位置づけだった。金額的にも病院投資には3年間で10億ユーロ程度を見積もる程度だった。これに対して、セギュール報告書では、イ)公立病院の累積債務の肩代わりとして130億ユーロ、ロ)保健分野への投資に5年間で60億ユーロが投じられるとされている*2。*3イ)公立病院部門の累積債務については、全体では300億ユーロ規模に膨れ上がっているといわれており、これが病院組織の改革の足かせの一つになっていると指摘されていた。国がその約3分の1にあたる100億ユーロ及び利払い分30億ユーロを引き取ることとなった。また、ロ)保健分野への投資としての60億ユーロについては、21億ユーロがEHPAD(les établissements d’hébergement pour personnes âgées dépendantes)という介護施設等向け、25億ユーロが病院・診療所等の連携強化向け、14億ユーロが医療部門におけるデジタル化支援向けという内訳とされた。*4(2)医療費支出に関連する改革(項目11、12、15)第二に、医療費支出に関連する諸改革も提言されている。まずは病院に関する診療報酬の改革である。従来はT2A(tarification à l'activité)と呼ばれる出来高払いの割合が多くを占めていた。例えば病院部門を全体在フランス日本国大使館参事官 大来 志郎コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方~医療提供体制改革編・下~18 ファイナンス 2021 Oct.SPOT

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