ファイナンス 2021年9月号 No.670
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各地の話題ITは高い技術を持つ人材に依拠するビジネスで、工場のように過疎地へ誘致することは困難です。呼び込めなければ創れば良い。起業志民プロジェクトは、ここからスタートしました。3育てた起業家が、次世代を育成する「エコシステム」起業志民プロジェクトは、起業を志す全ての人を応援することで、情報通信業への就職をするために市外へと流出する若者の選択肢を増やそうと、平成27年(2015)から始まりました。滞在中の宿舎までも含め、無償でプログラミングや経営を教えるスパルタキャンプが起点となり、地方に新たなムーブメントが起こりはじめています。技術などを身に着けた後に八幡平でビジネスを始めたい人を応援するため、5年間無料で利用できるシェアオフィスを提供し、事業計画の策定から資金調達までをハンズオンで支援。次々と起業するメンバーたちが、後進の起業家志望者の育成に当たるという、国内でも稀な起業家育成エコシステムを形成しています。当初は集客に苦労し、定員割れでスタートしましたが、地道なPR活動によってスパルタキャンプのエントリー数は年々増加し、ここ数年は数十倍の競争率で定着。参加してくるメンバーは、いわゆるニートからキャリア官僚、医師など非常に多様な背景で、起業のみならず移住も珍しくありません。中にはハワイやマレーシアに在住していた邦人が、本事業への参加を機に「八幡平の方が面白そうだから」と、起業を目指して移り住んだ例もあるほどです。4人が減っても「持続可能な社会」をITで移住者が集まり、起業が増え、雇用が生まれている。一見すると、もう完成しているように受け止められるかも知れませんが、八幡平市が起業家たちとともに目指しているのは、その先にある世界です。多くの起業家が八幡平市の取り組みに参画しています国全体の人口減が続いている限り、地域の人口増は国内でのゼロサムゲームの結果に過ぎません。短期的に人口動態を変えることが難しい以上、これからの地方がやるべきは人口減でも持続可能な社会基盤の創出です。この最適解となり得るのが、ITの活用に他なりません。慣れ親しんだ地域に安心して住み続けるためには、医療や福祉へのアクセスが不可欠ですが、八幡平市では医師の確保にも苦戦して無医地区が発生し、独居の高齢世帯が増え続けることで高齢者の見守りなど、社会基盤の維持が困難になっています。残念ながら、これは八幡平市だけの問題ではありません。多くの過疎地ですでに同様の問題が生じているのはもちろんのこと、これから人口減少を迎える都市部においてもいずれ起きる、未来の姿なのです。首都圏では地方からの人口流入もあり、踏みとどまっているように見えますが、過疎地から流出できる若年人口の絶対数が減っている以上、現状のシステムは限界を迎えることは必定です。人口減でも持続可能な社会基盤への期待は、高まっているのです。令和3年(2021)6月、八幡平市のような過疎の自治体であっても、社会基盤の存立を可能にするための挑戦が始まりました。スパルタキャンプに志ある者たちが世界中から集う ファイナンス 2021 Sep.85連載各地の話題

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