ファイナンス 2021年9月号 No.670
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図4-10 ドイツ 直接投資収益(GDP比)2000051015203210-1(%)配当金・配分済支店収益再投資収益利子所得等直接投資収益図4-11 ドイツ 証券投資収益(GDP比)2000051015200-1(%)1その他配当金債券利子証券投資収益図4-12 英国 直接投資収益(GDP比)20000510152034210-1-2(%)配当金・配分済支店収益再投資収益利子所得等直接投資収益図4-13 英国 証券投資収益(GDP比)01-1-2-3200005101520(%)配当金など債券利子証券投資収益(出所)図4-6~4-13はIMF、各国統計より作成。5.まとめ本稿では、所得収支に対する以下の2つの問題意識、(1)日本の所得収支の大きさに日本特有の要因があるのか。(2)所得収支はどのような要因で大きく変動するのであろうか。―に答えるために、所得収支の要因分解と主要国との比較を行った。*3) Bonfatti et.al.(2021)は日本、先進諸国、中所得国の3地域からなる世代重複一般均衡モデルを用いた2070年までの長期シミュレーションにおいて、アジアを含む中所得地域の全要素生産性の伸びが低下する場合、日本の経常収支の下押し圧力となることを示している。本稿の主なポイントは、(1)日本の所得収支特有の要因として、資産と負債の構成の違い(特に対外直接投資に対する対内直接投資の割合の低さ)が定量的に大きく寄与している。日米の実証研究によると、直接投資収益率の高さは、内外の法人税率の格差が影響している。(2)英国とドイツの経験上、2008年の金融危機や2010年のユーロ財政危機などをきっかけとする周辺国の恒常的な成長率の低下により所得収支は大きく変化した。以上の分析を踏まえて、日本の所得収支の今後を考える上でのポイントは何であろうか。1つ目は、日本の特徴である資産と負債の構成の違いの行方であろう。対外直接投資の方は、投資先として大きな割合を占めるアジア諸国の今後の経済成長の行方は重要である(図5-1)。今後、アジア諸国がどのようなペースで先進国への所得水準のキャッチアップを進めるのか、対外投資の水準と関連するであろう*3。一方、対内直接投資の方は、「経済財政運営と改革の基本方針2021」で2030年に投資残高をGDP比で12%(2020年12月末7.4%)まで増加させることが目標とされている。引き続き対外資産と対外負債の構成のアンバランスが続くのかどうかは日本の所得収支を見通す上でポイントとなる。2つ目は国際課税制度の動向である。本稿で述べたように国際収支は居住者と非居住者との取引を計上するため、現地法人の現地政府への税支払いが、受取からは控除されているのに対し、仮に全世界所得に課税される場合であっても、子会社の利益について、親会社が自国政府へ支払う税額は、受取から控除されない。一方で、対内直接投資にかかる外国企業の利益について、自国政府に支払われる税額は、支払から控除されることになるため、法人税率が高い国から低い国への直接投資収支は黒字が大きくなる傾向にある。また、軽課税国の存在は、多国籍企業の子会社立地や所得移転に影響を与えうる(図5-2)。グローバルな法人税改革が日本の経常収支の大半を占める所得収支に80 ファイナンス 2021 Sep.連載日本経済を 考える

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