ファイナンス 2021年9月号 No.670
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3.データ本稿で用いる国際収支統計は原則、IMFのBalance of Payments and International Investment Position Statisticsから取得し、欠損値は各国統計で捕捉した(データはすべて暦年値)。前節で説明したように本稿では対外資産・負債の通貨構成を反映した為替レートを用いる(輸出を分析する際に、各貿易相手国への輸出額の自国の輸出総額に対する比率で個別為替レートを加重平均した実効為替レートを用いるのと同じ考えである。)。作成方法はLane and Shambaugh(2010)やBénétrix et al (2015, 2019)を参考にし、IMFのサーヴェイ統計やBISの債券統計、国際資金取引統計から資産と負債の通貨情報を入手した(表3-1)(計算方法の詳細は補論2.また使用した統計の詳細は補論3.を参照)。表3-1 対外資産・負債の通貨構成に用いた主な統計対外資産対外負債直接投資IMF Coordinated Direct Investment Survey(CDIS)、各国統計現地通貨証券投資(株式・ 投資ファンド持分)IMF Coordinated Portfolio Investment Survey (CPIS)、各国統計現地通貨証券投資(債券)IMF Coordinated Portfolio Investment Survey (CPIS)BIS Debt Securities Statisticsその他貸付などBIS Locational Banking StatisticsBIS Locational Banking Statistics出所:Lane and Shambaugh(2010)を参考に筆者作成。4. 所得収支の変動要因(日本、米国、ドイツ、英国)日本、米国、ドイツ、英国の投資収支を要因分解した結果は図4-1~4の通りである。日本の所得収支は対外純資産の大幅な黒字がストック効果としてGDP比1%程度寄与している*2。また各対外資産と対外負債の利回りの差の合計である収益効果の影響が大きく、データを詳細にみると債券投資の受取りの利回りが支払いの利回りより大きいことが特徴である。2010年以降は、構成効果が大幅にプラスに寄与しているが、対外直接投資のみ大幅に増加し、利回りの高い直接投資の資産と負債に占める割合の差が広がったことが背*2) 為替レートの影響は小さいが、前述したように過去の為替レートの変化が評価効果を通じて対外純資産に影響をもたらすため、為替変動の影響が時間を経てストック効果に含まれている可能性がある。景にある(図4-5)。米国は対外純資産がマイナスのためストック効果が押し下げ要因となっている。一方、大きな収益効果が所得収支全体を黒字に押し上げている。先行研究によると直接投資の収益率が他の資産の収益率に比べて高いことが米国の特徴である。Curcuru and Thomas(2013)は米国の高い直接投資収益率は、内外の法人税率格差が国際収支統計上の収益の計上に影響していると分析している。Curcuru and Thomas(2013)の説明によると、国際収支は居住者と非居住者の間の取引を計上するため、現地法人による現地政府への法人税の支払いは、受取から控除されているが、現地法人から米国法人に送金された収益について支払われる税金は控除されていない。一方で、外国法人が米国政府に支払う法人税は、対内直接投資の収益(支払)から控除されている。そのため、投資先国の税率が米国の税率より低い場合は直接投資収益が大きくなる傾向にある。大野・鈴木(2019)、Bosworth et al.(2007)によると日米ともに直接投資収益率と法人税率には統計的に有意な関係があることが示されている。2017年までは、米国本国に送金が行われた場合には、米国内で課税されることから、米国の直接収益の中で再投資収益(子会社・関連会社が配当として分配しない収益)が高い比率を占めているのが特徴であった。2018年の税制改革において、海外子会社からの送金への課税がなくなり(国外所得免除方式へ移行)、18年以降は再投資収益の寄与が小さくなっている(図4-8)。また、その他要因としてリスクを取り新興国への投資が多いことも直接投資収益率の高さに影響していることがCurcuru and Thomas(2013)や大野・鈴木(2019)で示されている。図4-1 日本 投資収益の分解(GDP比)ストック効果為替効果収益効果構成効果投資収益200005101520453210-1(%)78 ファイナンス 2021 Sep.連載日本経済を 考える

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