ファイナンス 2021年9月号 No.670
81/98

支は大きく減少した。本稿では、以下、2.分析方法、3.使用した統計の概要、4.分析結果、5.まとめの順で説明をする。(本文は数式なしの解説に留めるため、詳細な計算方法は補論を参照。)2.所得収支の要因分解本稿ではForbes et al. (2017)を参考に、第一次所得収支の大半を占める投資収益を4つの要因(1)ストック効果、(2)為替効果、(3)構成効果、(4)収益効果に分解する(補論1.参照)。対象国は日本、米国、ドイツ、英国である。どの国も経常収支における所得収支の存在感は高まっている(図2-1~3)。資産・負債の種類は、(a)直接投資、(b)証券投資(株式・投資ファンド持分)、(c)証券投資(債券)、(d)その他貸付など、の4つである。(1)ストック効果:前年期末の対外純資産の大きさが所得収支に与える影響である。すなわち資産が負債より大きければ受取りが支払いより大きいことを捉えた効果である。例えば、日本のような対外純資産が大きな国は所得収支へのストック効果が大きくなると考えられる。(2)為替効果:対外資産と対外負債の通貨構成の違いを反映した為替レートの変動の効果である。例えば、対外直接投資は進出先の国々の通貨の影響を受ける一方、対内直接投資は自国通貨の影響を受ける。(対外資産・対外負債の通貨構成の違いを反映した為替レートについては次節と補論2.を参照。)(3)構成効果:対外資産と対外負債の構成の違いを反映した効果である。例えば、負債側より資産側の直接投資の割合が大きく、かつ、直接投資の収益率が他の証券投資などより高い場合、効果が大きくなる。(4)収益効果:各対外資産と対外負債のぞれぞれの利回りの差を合計した効果である。具体的には、直接投資、証券投資、貸付などそれぞれの受取りと支払いの利回りの差を計算し合計する。(1)~(4)への分解では資産側と負債側の特徴の差を会計的な計算式により取り出している。ただし、本稿での分析は、当期の所得収支を前期と当期のデータのみを用いた会計的な分解であるため、中長期の動学的なメカニズムはとらえきれていないことに留意が必要である。例えば、為替レートの変化が評価効果を通じて対外純資産に影響をもたらすため、(1)ストック効果には(2)為替変動の影響が時間を経て含まれている可能性があるが、ここではこのメカニズムは捉えられていない。図1-3 日本 地域別第一次所得収支(GDP比)200005101520(注)2013年以前の第一次所得収支全体は、日本銀行がIMF国際収支マニュル5版準拠統計を6版に準拠した基準に組み替えた遡及計数。図1-3の地域別所得収支は、筆者が5版の統計を用いて第一次所得収支全体を按分し作成。また「EU+英国」は、2020年2月より英国がEUに含まれていないことを調整している。(出所)図1-1~1-3はIMF、財務省、日本銀行、内閣府の統計より作成。その他EU+英国中国第一次所得収支(GDP比)ケイマン諸島米国その他アジアオーストリアその他中南米+カナダ43201(%)図2-1 米国 経常収支(GDP比)50-5-10200005101520(%)貿易収支サービス収支第二次所得収支経常収支第一次所得収支図2-2 ドイツ 経常収支(GDP比)貿易収支サービス収支第二次所得収支経常収支第一次所得収支2000051015201050-5(%)図2-3 英国 経常収支(GDP比)200005101520貿易収支サービス収支第二次所得収支経常収支第一次所得収支50-5-10(%)(出所)図2-1~2-3はIMF統計より作成。 ファイナンス 2021 Sep.77シリーズ 日本経済を考える 116連載日本経済を 考える

元のページ  ../index.html#81

このブックを見る