ファイナンス 2021年9月号 No.670
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html所得収支の変動要因: 国際比較から見る日本特有の要因*1財務総合政策研究所/主任研究官松岡 秀明シリーズ日本経済を考える1.世界一の日本の所得収支黒字額*1IMF国際収支統計によると2020年の日本の第一次所得収支(対外資産・負債から生じる直接投資、証券投資などのネットの収益)は11年ぶりに米国を抜き、世界一位の規模になった(図1-1)。日本の所得収支は統計が存在する1985年以降、常に黒字を計上し、直近10年では経常収支の中で貿易収支に代わりその存在感が高まっている(図1-2)。地域別収支をみると過去から大半を占めていた米国に加えて、近年、経済規模を拡大してきた中国やその他アジア諸国、また法人税率ゼロパーセントのケイマン諸島のシェアも拡大している(図1-3)。米国の第一次所得収支も統計が存在する1960年以降、黒字を計上し続けている。こうした所得収支黒字国の存在は、同時に世界のどこかに同程度の赤字を抱える国が存在していることを意味し、2020年の赤字額は英国と中国が大きい。本稿の問題意識は以下の2つである。(1)日本の所得収支の大きさに日本特有の要因があるのだろうか。(2)所得収支はどのような要因で大きく変動するのであろうか。それぞれ上記の2つの問いに答えるために本稿では(1)2020年の所得収支黒字が2位の米国と3位のドイツとの比較を行うことにより、日本の特徴を把握する。*1) 本稿の作成にあたっては、財務総合政策研究所の様々な方より貴重なコメントを頂いた。ここに記して深く感謝の意を表したい。本稿の内容や意見は全て筆者の個人的な見解であり、財務省および財務総合政策研究所の見解を示すものではない。本稿における誤りのすべては、筆者の責に帰すべきものである。(2)英国の所得収支は2000年代前半まで黒字基調であったが、2010年代に入り所得収支の赤字が定着しているため、どのような要因で所得収支に大きな変動が生じたのかを考察する。分析手法は、所得収支を会計的に要因分解したForbes et al. (2017)を参考にする。結論を先取りすれば、日本の所得収支の特有の要因として、資産と負債の構成の違い(特に対外直接投資に対する対内直接投資の割合の低さ)が定量的に大きく寄与している。日米の実証研究によると高い直接投資収益率には、内外の法人税率の格差が影響している。また、英国の経験では、ユーロ財政危機をきっかけとした周辺国の恒常的な成長率の低下により所得収116図1-2 日本 経常収支(GDP比)50-5200005101520(%)貿易収支サービス収支第二次所得収支経常収支第一次所得収支図1-1 主要国の第一次所得収支(世界GDP比)0.30.20.10.0-0.1-0.2日本米国ドイツ英国中国(%)1985199020002010202076 ファイナンス 2021 Sep.連載日本経済を 考える

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