ファイナンス 2021年9月号 No.670
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は、仕事にしても勉強にしてもスポーツにしても同じで、努力してできることはやればいいだけだからやるし要求します。そこはすごく厳しいですね。今でもジムに行きますが、体を鍛えるためではなく意思を鍛えるために行きます。肉体トレーニングって、やればやっただけ体に結果が出ます。どれくらいの回数をやるのか、どの程度の強度でやるのか。それが前の自分よりも上回っていれば、よりしっかりした体になるし、下回っていれはだらっとする。視覚的に誰の目にも明確に結果が見えます。そういう意志を鍛える意味で一番分かりやすいので、身体のトレーニングを今も続けています。もう一点、人材の育成についてですね。僕が小学生の頃、日本にプロサッカーリーグはなかったので、プロになるための努力は必要ありませんでした。その後、プロサッカーリーグが日本にできたので、プロになるという努力を始めました。人材の育成は、個人個人を助けてあげようということではなくて、みんながより上を目指せる、その環境をつくってあげることだと思います。目指すところがあれば、目指す人は努力する。でも目指すところがないと、努力もしなくなります。だからこそ僕は、仕組みづくりがいつも大切だと思っています。僕は蔵元の売上を助けるというつもりはなく、造る人間が販売までをやるというのが責任だと思います。ただ、売上を伸ばしたいと思っても出来ない環境もあります。頑張りたい人が頑張れば結果が出る環境をつくってあげることが、一番大事なことだと思います。質問者2 中田さんのお話から、活路をとにかく見いだそうとする、あるいは結果を出そうとする執念のようなものを感じました。それがどこから湧き上がって来られるのかなというのを、ずっと思いながら聞いていました。どうしてそのような考え方をするようになったのだと思われますか。中田氏 まずはやはり好きであることですね。好きであるということは、どうやれば出来るかを考える。今は難しいことを理由に出来ないと思う人ってすごく多いと思います。可能性が少なくても、どうやったら出来るかを考える事が大事です。例えばブロックチェーンやコールドチェーンも、サッカーも、僕はいつでもできると思ってやっています。だから世の中の常識的にこうであるということは、僕には関係のない話です。むしろ世の中の常識って、僕には大体間違っているだろうなと思っています。なぜかというと、それは世の中の一般的な話であり、多くの人が思うことということです。僕が判断するべきは、自分の中での考え方やルール、そこでやれると思えばやればいいだけで、周りがどう思うかは関係ないのです。だから、1%の可能性があり、99%は不可能の場合でも、僕には可能性しか見えていないので、やれない理由を考えることがまずないということだと思います。それは好きだからこそやっているので、好きでやるときに不可能を考える意味はありません。これは仕事でも通じることだと思います。1998年のワールドカップに出る前の日本は、「ワールドカップに出る=夢」だとか、「ヨーロッパリーグでやる=不可能」でした。僕は初めから出られると思ってやっていました。オリンピックに出た時もイタリアへ移籍した時も同じです。最初から自分ができないと思ったらできない。できると思うものはできます。だからそこはやはり自分の意識を変えるべきだと思います。阪田 本日は、貴重なお話を拝聴させて頂き、誠に有難うございました。講師略歴中田 英寿(なかた ひでとし)株式会社JAPAN CRAFT SAKE COMPANY 代表取締役1977年生まれ。山梨県出身。2006年、29歳でプロサッカー選手を引退。2009年4月から、全国47都道府県をめぐる旅をスタート。この旅をきっかけに日本文化に可能性を強く感じたことから、日本文化を発信する事業を多数手がけ、2015年には、「株式会社JAPAN CRAFT SAKECOMPANY」を設立。全国を旅して出会った人・モノ・コトを公式WEBメディア「にほんもの」で紹介しているほか、多言語での書籍の出版、全国の優れた生産者を紹介するラジオ番組「TDK VOICES FROM NIHONMONO」(毎週日曜12:00~)のナビゲータを務め、全国の逸品を取り扱う「にほんものストア」も展開。2020年4月には立教大学の客員教授に就任し、「伝統産業とマーケティング」を担当。2020年10月、東京国立近代美術館工芸館名誉館長に就任。日本の伝統文化や食・人に注目し、その魅力を伝えるために、幅広い活動を行っている。 ファイナンス 2021 Sep.69令和3年度職員トップセミナー 連載セミナー

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