ファイナンス 2021年9月号 No.670
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くなるためには、様々なプレーヤーが入ってプロダクトが最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を用意することが必要ですが、日本酒でこのようなことができているかというと、まだまだできていません。だからこそ、そこに取り組んでいこうと考えました。僕が個人のビジネスとして考えるのであれば、「中田ラベル」を立ち上げて売ったほうが早いと思うのですが、それでは業界全体を変えることにならないし、日本酒産業が伸びていくことにもなりません。産業が伸びていくためには構造的な改革が必要です。このほかにも日本酒業界の成長を阻む問題がいくつかあります。一つはどのような地域のどんな消費者にどんな商品が消費されているか、そういったことが国内・海外ともデータとして蔵元が把握できていないため、戦略的な考えに基づく製造ができないという問題があります。また、流通経路の問題もあります。日本酒業界には古くからの商習慣による流通経路があるため、消費者には自分が好きなお酒がどこで買えるか分からず、その結果、値段が高騰したり偽物が出てくるという問題もあります。情報と物流が整ったときに物は売れていくと思いますが、現状、日本酒の場合には両方ともありません。6. 流通・販売管理システム SAKE BLOCKCHAIN阪田 問題を解決するために、どのような取り組みをしておられるのですか。中田 会社で何年も取り組んでいるが「SAKE BLOCKCHAIN」というものです。蔵元から最終消費者まですべてのサプライチェーンが持つ情報を共有・可視化するプラットフォームです。酒業界では、蔵元、流通、レストラン、最終消費者それぞれが持っている情報が共有されていません。蔵元が酒販店に販売したお酒が酒販店からどのレストランに流れているのか、そのレストランではどんな人たちに売れているのか、在庫状況がどうなのか、というような情報です。努力している酒販店やディストリビューターもいるのでしょうが、多くの場合、国内についても海外についてもほぼ分かりません。こうした情報をみんなでシェアできるようにしよう、というのが「SAKE BLOCKCHAIN」です。このシステムを国内外で広げていけば、先ほどの問題点は改善されます。蔵元から最終消費者までのサプライチェーンで情報の共有ができて、それが可視化されるので、蔵元もどのような商品がどういう地域により多く販売され、また酒販店や、例えば海外のディストリビューター、さらにレストランでの在庫状況も分かります。この「SAKE BLOCKCHAIN」と「COLD CHAIN SYSTEM」(温度管理システム)を結びつけることで、何度の場所に何日間商品があるのかがわかることで、品質の保証ができます。また、どのような国のどのようなレストランでどういったお酒が売れているのか、どんな値段のもの、どんな味わいのものが売れているのか、というマーケット情報がわかるようになります。コロナの感染拡大が始まって、世界各国で日本酒が売れにくい状況ですが、「SAKE BLOCKCHAIN」のおかげで僕たちはほとんど影響を受けていません。それは、日々のデータからどの国、どのレストランがコロナの影響を受けているのか、どれくらいの在庫があり、商品が動いるのか動いていないのか、どの商品をいつ、どの国に出荷して、どこのレストランに販売していくことが最も効率的なのかが、蔵元もディストリビューターも瞬時に把握できるからです。逆に言うと、問題があるレストラン、問題があるディストリビューターをサポートすることもできます。当然のことながら、販売動向からその国の趣向性も分かるので、どういった商品は、どの国のどのレストランに売りやすいとか、そういったマーケット情報も全て入ってきます。また、きちんとした流通を通ってきているのかが百パーセント分かり、その経路を通っていないお酒は、状態が悪い可能性、偽物である可能性があるということが消費者にも分かります。この仕組みによってお酒のブランド価値が高くなり、消費者は安心してお酒を飲むことができます。現在、中国、韓国、台湾、香港にこのシステムを使って販売をしていますが、これを世界中に広げ、最終的には国内も網羅していくつもりです。そうすると、何となく考えて造って、何となく値付けをして、何となく販売していたものが、より明確に出来るようになります。料理にしても、日本料理であれば、お寿司なのか、焼き鳥なのか、懐石なのか、細かく切り分66 ファイナンス 2021 Sep.連載セミナー

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