ファイナンス 2021年9月号 No.670
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れと伝えました。人生は好きなことをやるということが僕の考え方で、幸運なことにお金を稼ぐために働いたことがありません。だって、子供の頃から好きではじめたサッカーをやっていた人間がそのままたまたまプロになって、海外でサッカーをやっていただけなので。重要なことは好きなことをやり続けることであって、それは仕事だからやるわけでも、お金が稼げるからやるわけでもないということです。だから、サッカーを辞めると決めた時に、次に何かしたいことがあったわけではありません。2. 好きなことをみつけるために世界の旅へ阪田 2006年にサッカーを引退された後、なぜ世界の旅に出られたのでしょうか。中田 お金を稼ぐために何かをするという選択肢は僕にはなかったので、サッカーと同じくらい好きになれることを探すために世界中を旅することにしました。それまでサッカーしかやってこなかったので、自分が知らないことを知り、自分が本当に好きなこと、興味あることを見つける旅をしました。そのときは、日本に年に1か月もいなかったと思います。素晴らしいリゾートから貧困地域や紛争地域まで様々な国に行き、時には各地で活動している国連やNPO/NGOなどとも連携しながら、なかなかいけない地域にも行きました。サッカーは世界中で人気があり、サッカー選手が来るというと人が集まるので、そこでワクチンを打ったり、蚊帳を配布したりするような社会貢献を一緒にやったりしました。当時は、チャリティーマッチなどにもよく参加していました。サッカーは自分の人生の中で大きな存在です。プレーするだけではなく、サッカーの力を生かして世界中、特に貧困地域、紛争地域を回ったことは、自分の人生の中でも大きな経験になりました。ビックリするような地域でも自分が知られていて、例えばチベットではたまたまホテルの部屋でテレビを観ていたら、偶然、僕のインタビューが30分くらい流れていたり、カザフスタンからウズベキスタンに抜けるときには、国境の兵士たちが「おい、ナカタが行くぞ。」と国を超えて話し合っていました。旅を通じてサッカーの力、スポーツの力を実感し、この力を生かして更にいろいろなことができるのではないかという思いから「TAKE ACTION FOUNDATION」という財団を2008年に設立しました。FIFAには今も関わっていますが、サッカーの現場というよりも、社会貢献やルール改正など、世界を一つとして見る視野を養うためにやっているようなところがあります。例えば、サッカーのルール。サッカーは世界で最も競技をしたり観たりする人口が多いので、サッカーのルールは、世界の法律を決めるのと何ら変わらないのではないかと思います。ヨーロッパのスタジアムだろうとアフリカの草原だろうと、どういう環境であっても、スポーツである以上同じルールでなくてはいけません。お金でも環境でもなく、すべての条件を考えた上で、ルールを話し合うのですが、これは非常に面白い。僕はどうしても自分の環境下での視点や常識で話をしてしまいますが、違う環境にいる人たちの話を聞くと、こういうものの見方があるのだと知ることができます。あらゆる環境を想定して物事を決めていくということが非常に勉強になりますし、自分の事業をやるときにも世界を見ながら何をするべきか、という視点を常に持つことができます。3. 誰よりも日本のことを知ろうと全国を巡る阪田 世界の旅を通じて次にやること、好きなことは浮かび上がってきたのですか。中田 世界の旅の中で、発展途上国における社会貢献活動が僕にとってはとても興味深かったので、自分にどういうことができるのかを考えたり、また財団を立ち上げたりしました。一方で、世界中どこへ行っても、自分がサッカー選手として見られていると同時に「日本人」として見られていることが頭にひっかかっていました。皆さんも海外に行けば自分は外国人だ、という認識はあると思いますが、日本人として海外に行っているという強い認識はあまりないのではないでしょうか。でも、旅をする中で世界中の人々から日本のことを聞かれ続けることで、自分が日本人であるこ ファイナンス 2021 Sep.63令和3年度職員トップセミナー 連載セミナー

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