ファイナンス 2021年9月号 No.670
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済サービスです。これまでシンガポールでは、当時既に各主要銀行がそれぞれ異なるモバイル決済サービスを提供している状況で、提供銀行によってアプリや送金の仕組みが異なっていること、また、当該サービス提供銀行のみでの取引が中心でした。この点、PayNow導入により、参加16行のシンガポールの銀行口座を保有してさえいれば、異なる銀行の口座間でも、相手の銀行口座番号を知らずとも、携帯電話番号又は身分証明番号のみで容易に送金することが可能となりました。また、企業間の資金決済はもとより、企業による給与や保険金等の支払いなど企業―顧客間の資金決済にも活用の途が開かれることとなったのは、画期的なことと言えるのではないでしょうか。このシンガポールのPayNowの経験を、日本におけるモバイル決済サービスの統一化に向けた取り組みに何らかの形で生かせないのか、専門家の更なる検討に委ねたいと思います。(2)環境(グリーン)に配慮した取り組みデジタルと並び政府が力を入れようとしているのがESG(環境・社会・企業統治)関連、なかでも環境に配慮した取り組みです。シンガポール政府は2021年2月10日、環境行動計画「シンガポール・グリーンプラン2030」を発表(参考3)しました。これは、2030年までに国を挙げて取り組むべき環境政策の包括的なプランです。同政府は、持続可能な環境を整備して国民の暮らしを守ると同時に、環境に優しいエネルギー源を確保し、クリーンな燃料車の普及を後押しする方針を示しています。また、環境プロジェクトに必要な資金を調達するためのグリーンファイナンスなど、新たなビジネス機会の創出も目指すとしています。シンガポール金融管理局(MAS)は、今年1月1日から、環境や持続可能性に配慮した事業などへの融資を促進する助成制度「グリーン・アンド・サステナビリティー・リンクト・ローン・グラント・スキーム(GSLS)」を設けました。これは、融資を受けるためにかかる費用の助成などを行う、政府の支援制度です。なお、モビリティーの分野でも、政府はガソリン・ディーゼル車の利用を段階的に減らして40年までに廃止する目標を設定しました。実際、政策の一環として、EV(電気自動車)のシェアリングステーションが街中にさり気なく設置されています。加えて、EV工場の誘致のみならず、充電用のEVステーション設置の促進、環境に配慮した自動車の購入を促進するための販売奨励金の強化など、関連する取り組みが目白押しです。 5 結語駆け足で、シンガポールにおけるコロナ禍の進展、ポストコロナ時代へ向けた当局の取り組み、及びシンガポールの強みなど概観してまいりました。特に、新型コロナによるパンデミックは、あらゆる分野でのデジタル化を加速させています。対面でのリアルなコミニュケ―ションに代わり、デジタルを通じた取引、デジタル経済の拡大は製造業や小売業といっ(参考3)2030グリーンプランの概要2030グリーンプランに盛り込まれた主な目標分野主な目標環境に優しいエネルギーの利用・2030年までに公団住宅地区のエネルギーエネルギー消費を15%削減・2030年までに全てのビルをグリーンビルに・2040年までに内燃機関車からよりクリーンなエネルギー燃料車へと、段階的に転換・太陽エネルギーを2025年までに1.5ギガワットピーク(GWp)、2030年までに2GWp以上へグリーンエコノミー・アジア、世界有数のグリーンファインス拠点へ・研究・イノベーション・エンタープライズ2025年計画(RIE2025)に基づく国内のイノベーション活動を推進すると共に、新しい持続可能なソリューションのR&D活動の誘致・中小企業向け持続可能プログラムの導入都市の自然環境・年間の植樹本数を2倍とし、100万本を植樹へ・自然公園の面積を2020年比で50%以上拡大へ持続可能な生活環境・2030年までに自転車専用路を現在の全長460キロから約1320キロへ・2030年代初旬までに鉄道網を現在の全長230キロから360キロへ・2026年までに埋め立て地に送るごみを1日1人当たり20%削減、2030年までに同30%削減・2030年までに移動手段に占める公共輸送の割合を75%に拡大・2030年までに学校の二酸化炭素の排出量を3分の2に削減し、少なくとも学校の2割を炭素中立に未来の気候変動への対応・2030年までに食料自給率を栄養ベースで30%に引き上げ・海面上昇への対応で海岸線を保護へ(出所)JETRO ファイナンス 2021 Sep.59海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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