ファイナンス 2021年9月号 No.670
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3 「ウィズ・コロナ」時代に向けて2021年6月1日、シンガポール首相のリーシェンロン首相は、自身のフェイスブックで「新型コロナウイルスへの対応は短距離レースではなく、マラソンのようなものだ。ワクチンが開発されたとしても、以前の状況には戻らない」と述べました。コロナ感染と今後のシンガポールの在り方」については、下記3点を強化することで、今後大きなクラスターを防げる、また、近い将来には諸外国との往来を可能にし、シンガポールの経済復興と繁栄が期待できるとの見方も示しました。これは、長期にわたる「ウィズ・コロナ」の時代へのシンガポール政府の意思表明と捉えられています。(リーシェンロン首相のスピーチで強調された3点)1.迅速な感染有無の確認テスト(近日中に検査キットが薬局で入手可能に)2.感染経路の追跡システム(Trace Together他)3.ワクチン接種(シンガポール全国民・住人に対しての早急なワクチン接種の推奨)また、2021年6月24日、シンガポール政府の新型コロナウイルス対策チームに参加する閣僚3人(ガン・キムヨン貿易相、ローレンス・ウォン財務相、オン・イエクン保健相)は、英語紙The Straits Timesに寄せた論評で、「ウィズ・コロナ」時代を見据えた今後の在り方を示しました。具体的にはロックダウン(都市封鎖)措置や現行の大規模な接触追跡、1日ごとの集計体制を撤廃し、隔離期間なしの移動や大規模な集まりを認めるとし、新型コロナをインフルエンザや手足口病、水ぼうそうなどと同様に、風土病(endemic covid-19)扱いとし、通常の生活に戻る道を提案しています。このアプローチのカギとなるのが新型ウイルスワクチンの接種率です。シンガポールでは7月初めまでに国民の3分の2が少なくとも1回の接種を受け、8月9日までには3分の2が2回の接種を完了する見通しとなっています。ワクチンが感染や重症化を防ぐ効果は高いと強調し、患者数の動向についてはインフルエンザのように、重篤な症例や集中治療室(ICU)の収容人数を監視し、また、ワクチンは追加接種が必要になる可能性もあるとして、数年間にわたる接種計画の策定を提案しています。検査は大規模なイベントの前や海外からの帰国時など、特定の状況に限って実施。その際、PCR検査よりも速くて手軽な検査法を導入するとしています。およそ1~2分間で結果が出る呼気検査法の採用も検討するとのこと。同時に効果的な治療法の開発も進むだろうとも指摘しています。また、ワクチンと検査、治療薬に加え、市民一人ひとりの衛生習慣や、体調の悪い時は人ごみを避けるなどの心がけも求められるとし、結果として、新型ウイルスに感染した患者への対応は近い将来、大きく変わることが予想されるとも指摘しています。 4 シンガポールの強み以下、シンガポールにおける、(1)デジタル技術の活用、特にキャッシュレス化の進展や(2)環境に配慮した取り組み(グリーン)について、簡単に触れるみることとします。(1) シンガポールにおけるデジタル技術の活用(特に、キャッシュレス化の進展について)シンガポールは間違いなく、デジタル技術の活用では世界の最先端を走っています。それを牽引する強い政府、担当官庁(シンガポール金融管理局他)が存在し、そして人材も豊富です。特に、電子決済を用いたキャッシュレスの推進は、デジタル化を進めるシンガポールが最も力を入れている分野の1つです。シンガポールの15歳以上の人口に占める銀行口座保有者割合(2018年)は98%、デビットカードの保有率は90%を超えています。また、銀行が発行するATMカードには、通常、VISAやMasterのデビット機能がデフォルトとして付与されているため、キャッシュレス決済の手段として、デビットカード等を用いた非接触型店頭決済が普及しています。シンガポールの電子決済環境整備の歴史の中で外すことの出来ないのは“PayNow”です。これは、2017年7月に導入開始された、携帯電話番号又は身分証明番号のみで銀行口座間送金を可能とする電子決58 ファイナンス 2021 Sep.連載海外 ウォッチャー

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