ファイナンス 2021年9月号 No.670
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1 導入2021年5月某日、生憎、午後からにわか雨です。テレワーク中ということもあり、自室の窓からぼんやりと雨が降っている外を眺めていました。丁度、二年前の今頃は、シンガポールにあるASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)のCMIMスペシャリストのポジションに応募し、宿泊先のホテルの一室で緊張しながら、最後の面接の準備をしていたのを思い出し思わず苦笑い。月日が経つのは早く、AMROの職員として働き始めて早二年が経ってしまったことに改めて気づかされました。本稿の執筆依頼を受け、どのようなテーマで書くべきか正直迷いました。ASEAN+3の金融協力については、何度か別の機会に原稿を書いたこともあります。また、小職が担当しているCMIMはマニア向けのテーマであり、また、守秘義務もあるので、ASEAN+3の財務トラックで何を議論しているのかについて踏み込んで書くのも難しい。であれば、今回は少し趣向を変えて、シンガポールがどんな国なのか、に少し焦点を当てて書いてみようと思いました。シンガポールを聞いて、皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか。「アジア四小龍」、「日本の淡路島とほぼ同じ面積」、「史上初の米朝首脳会談の実開催地」-いずれもシンガポールのことです。狭い国土と少ない人口(約570万人)をものともせず、政治的なリーダーシップや知恵をフルに使いながら、巧妙に他*1) なお本稿で述べる意見は、あくまでも筆者の個人的な見解であり、AMROその他のオフィシャルな立場を反映したものではありません。国と協力関係を構築。また、多様で優秀な人材を引きつけ、目覚ましい成長を続けてきた同国の歴史はみなさんもご存じかと思います。ですが、新型コロナ禍の折、経済の減速のみならずヒトの移動が妨げられることで、この国は少なからぬ脅威を受ける結果となりました。本稿では、まずコロナ禍でのシンガポール当局の対応を概観した後に、シンガポールの今、そして、日本人一駐在員から見える将来を見据えたシンガポールとの関係について簡単に触れてみたいと思います*1。 2 シンガポールにおけるコロナ禍の変遷◆ 2020年1月~6月:コロナ禍初期(サーキットブレーカー(部分的ロックダウン)発動)2020年1月23日に初のコロナ国内感染者が認められた後、目立った感染の広がりが確認されず、水際対策も厳格に実施されていたことから、当初は世界保健機関(WHO)もその対応を高く評価するほど抑え込みに成功していると見られていました。しかし、同年4月以降、感染が急速に拡大し、感染数は1か月余りで20倍以上に増え、8月初旬までに合わせて5万4000人を超えました。このうち感染者の9割は、シンガポールの経済発展を支える外国人労働者30万人が占めていました。外国人労働者は狭い寄宿舎(dormitory)で、一部屋に10人程度が同居し、トイ海外ウォッチャーAMRO CMIMスペシャリスト 渡辺 直人FOREIGNWATCHERコロナ禍におけるシンガポール、そして今後を見据えて50 ファイナンス 2021 Sep.連載海外 ウォッチャー

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