ファイナンス 2021年9月号 No.670
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の間で署名が行われる形で、82億ユーロ規模の報酬引上げで合意が成立した*19。これは、象徴的なミクロのモデルケースとしては「公立病院の看護師の報酬を平均月額183ユーロ引き上げることができる規模である」とプレゼンテーションがなされた。(写真5) ジャン・カステックス首相(Benoît Granier / Matignon)5看護師・パラメディカル等の報酬引上げ合意にかかる視点この合意について、いくつかの視点から見てみたい。(1)労働組合との関係第一に、主な交渉相手だった看護師・パラメディカルの労働組合側からも「歴史的な合意」などの声があがった。ただし、合意に署名したのは、交渉のテーブルについていた五つの労働組合のうちCFDT(フランス民主労働同盟)、FO(労働者の力)、Unsa(独立組合全国連合)の三団体であり、より強硬姿勢のCGT(労働総同盟)とSUD(連帯統一民主労働組合)は署名していない(この点が来月号に述べるように2020年秋以降の政策再調整の一因ともなる)。いずれにしても、1で見たように政府と労働組合の溝が埋まらない(=ストライキが継続する)状況が続いていたコロナ危機発生以前の状況と対比すると、この合意は、双方サイドの一定の歩み寄りを象徴するものであったとも考えられる。危機が仲介を果たす、というのは皮肉のようでもあり、一つの知恵のようでもある。*19) https://www.gouvernement.fr/sites/default/les/document/document/2020/07/dossier_de_presse_-_signature_des_accords_du_segur_de_la_sante_-_13.07.2020.pdf*20) https://www.vie-publique.fr/discours/275250-emmanuel-macron-14072020-covid-19*21) https://www.gouvernement.fr/sites/default/les/document/document/2020/07/dossier_de_presse_-_signature_des_accords_du_segur_de_la_sante_-_13.07.2020.pdf(2)合意のタイミング第二に、この看護師・パラメディカル等の報酬引上げに関する合意は、セギュール医療全体会議が発足した時に掲げた四つの柱のうちの第一の柱に関するものであり、他の三つの柱に先立って、単独でなされた。7月14日(le Quatorze Juillet)はフランスの革命記念日であり、毎年シャンゼリゼ通りでの軍事パレードの後、大統領が参加する式典が開催される。2020年は、コロナ危機の影響により、軍事パレードさえ取りやめとなるなど規模が縮小される中、コンコルド広場での開催となった大統領参加の式典には、かなり限定された参列者が招待された。その中に、この公衆衛生危機において多大な献身を捧げたとして、看護師代表などの医療関係者が含まれ、大統領のメッセージの中ではこれら関係者に対する称賛(hommage)が送られた*20。こうした「晴れの場」を前にして、政治的にもっともトゲとなる報酬引上げ規模については事前に決着をしておきたい、という関係者の思いが働いたのだろう、という見方が有力だった。(写真6) 2020年7月14日の革命記念日式典。看護師代表などが招待された。(フランス政府公式写真)(3)合意の詳細項目第三に、子細に見ると、「看護師の報酬、月額183ユーロアップ」というプレゼンテーションの表看板に限定されず、医療関係者の報酬引上げの合意内容は多岐の項目にわたっている。以下(ア)~(ウ)がその主要なものとなる*21。34 ファイナンス 2021 Sep.SPOT

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