ファイナンス 2021年9月号 No.670
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性は維持しつつ、実施を加速すると説明した。*13(写真4) 第一回会合終了後のフィリップ首相による記者会見(Franceinfo)このフィリップ首相の発言からは、2018年に「私の保健2022」を策定した段階で盛り込まれていた改革を貫徹したい、単なる報酬引上げに終わることなく総合的な医療提供体制改革にしたい、という政府側の意思が読み取れる。公立病院サイドも、例えばイルドフランス圏公立病院グループAP-HP(L’Assistance publique – Hôpitaux de Paris)のトップであるマルタン・イルシュ(Martin Hirsch)氏などは、「ボールは政府の側だけにあるわけではない。今般の改革の成否は、病院関係者がこれまでを省み、硬直性から抜け出し、自己を再発見することができるかにかかっている。一律横並びではなく相違を受け入れる、より大きな自由の代償としての責任を負う、診療所・予防施設との懸け橋を作る、そういったことを意味している。これまでの行動様式や縦割りを残したまま、ただ単に小切手が舞い込むことを待っているだけで*13) https://www.vie-publique.fr/discours/274563-edouard-philippe-25052020-segur-de-la-sante-systeme-soins-coronavirus*14) https://www.lesechos.fr/economie-france/social/il-faut-liberer-lhopital-de-ses-carcans-1205263*15) イルシュ氏は官界の経歴が長いが、この時期、病院の勤務医等も連名で新聞寄稿をし、以下のような項目について総合的な提言を行っている(2020年5月25日付ル・フィガロ紙)。 ・地方レベルで病院等医療職委員会(Commission médical d’Etablissement)の議長に決定権限や病院運営権限を付与すべき。 ・診療所・社会医療院・公私の病院等の協同を進めるべき。 ・医療センター(CH)、大学医療センター(CHU)における不要な入院を制限すべき。 ・診療所と救急センターの体系的連携によって不要な救急利用を抑制。 ・将来の感染症蔓延時における、他の治療の継続を可能とする病院施設の在り方の再考や増床の検討。 ・国の保健関連支出目標は、必要性と見合った規模であるべき。研究や病院への集中的投資は喫緊の課題。 ・治療行為に関して、疫学的データに基づいた簡素な基準が必要。 ・不要な支出を抑えるため、医学的公平性を以って治療行為を適切に評価すべき。効率的な社会保障支出管理とともに、歳入の確保が必要。 ・公立病院の事務負担軽減を通じて、教育と研究に技術・人材を重点化。 ・ 診療科の長(Chef de service médical)に率いられた治療チームが大学病院の中心的役割を果たすべき。自治、決定権限、相応の規模そして十分なスタッフが付与されるべき。 ・デジタル情報システムの簡素化と流動化が必要。 ・ 研究者・評価者の独立性確保やCH・CHUにおける研究プロジェクト実施手続きの簡素化が競争力向上に資する。プロジェクトに伴う収入は同じプロジェクトチームに再投資されるべき。 ・病院における医療関係者の他国水準への報酬増とそれに伴う民間との格差是正が必要。*16) https://www.lesechos.fr/economie-france/social/segur-de-la-sante-olivier-veran-met-6-milliards-sur-la-table-pour-les-salaires-a-lhopital-1218195*17) https://www.legaro.fr/social/le-segur-de-la-sante-prolonge-faute-d-accord-20200703*18) https://www.lesechos.fr/politique-societe/gouvernement/en-direct-remaniement-suivez-linstallation-du-nouveau-gouvernement-et-les-passations-de-pouvoir-1221832あれば、改革の効果は持続しないだろう。」などと述べ、総合的な改革を求めている*14。*154看護師・パラメディカル等の報酬引上げをめぐる綱引きと合意こうした総合的な改革への望みにもかかわらず、セギュール医療全体会議の議論途上における関係者やマスコミの関心は、やはり看護師・パラメディカル等の報酬引上げの規模に集中した。ヴェラン連帯保健大臣は2020年6月末の段階で看護師・パラメディカル等の報酬引上げに60億ユーロの予算を充当することを提案し*16、7月入るとこの総額が70億ユーロまで相場が上がってきているとされた。当初、政府はこの金額で妥結し、セギュール医療全体会議の終了を狙っていたものの、労働組合側との合意に達することができず会議終了時期を延ばすこととなったと言われている*17。7月3日には、フィリップ首相の辞任を受けて後任のカステックス(Jean Castex)首相が就任する。カステックス首相は7月6日に新内閣を組閣(ヴェラン連帯保健大臣は留任)したが、就任当初から精力的にセギュール医療全体会議関連の調整に参画をし、7月7日には、首相自らが増額された75億ユーロを提示した*18。それでも医療関係者側とは合意できず、7月9日には政府側からの提示額は80億ユーロ「以上」に引き上げられた。最終的には、2020年7月13日に首相府においてカステックス首相・ヴェラン連帯保健大臣と、労働組合側と ファイナンス 2021 Sep.33コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方SPOT

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