ファイナンス 2021年9月号 No.670
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(付論)本稿の準備をはじめるタイミングで接したのが、本年3月に発刊された『沖縄経済と業界発展ー歴史と展望ー』(大城肇ほか著 1950倶楽部編 光文社コミュニケーションズ株式会社刊)である。その中で「第一章 琉球・沖縄の経済発展史」(執筆:大城淳・沖縄大学経法商学部准教授)は、「琉球・沖縄の歴史を経済学の視点で整理した」注目すべき論考である。すなわち、「沖縄が王国時代、唐の世、ヤマトの世、アメリカ世…というように、世代わりによって制度変革をたびたび経験してきた歴史を、パラダイム・チェンジという観点から経済学的にとらえ」、「制度的ゆがみがある中で、経済発展を支える一貫した制度がなかったこと、個人が主人公となる市民社会の立ちおくれ、何よりもヒューマン・キャピタル(人的資本)への投資と民間の資本蓄積のおくれが、沖縄経済の低位性をもたらしたことを示した」労作である。大城准教授は、この論考の締めくくりで、「イノベーションを醸成する地理的環境に関しては、沖縄はまだまだ改善の余地があるように筆者は感じている。知の時代において、おもしろいことをやるなら沖縄で、と思える空間にしていきたい。さらなる経済発展に向けて、沖縄は地理的な課題と格闘する必要があるだろう」と述べる。このような気鋭の論者による、アカデミズムを踏まえつつも、のびのびとした忌憚のない議論が今後の沖縄でさかんに行われるようになることを衷心より期待したい。プロフィール渡部 晶(わたべ あきら)財務省大臣官房公文書監理官1963年福島県生まれ。87年京都大学法学部卒、大蔵省(現財務省)に入省。福岡市総務企画局長、財務省地方課長、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発公庫副理事長などを経て、21年7月から現職。「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラムを掲載中。出身の福島県いわき市の応援大使を務める。筆者近影(フレディ(2歳7か月)と)28 ファイナンス 2021 Sep.「沖縄振興の5年間」雑感SPOT

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