ファイナンス 2021年9月号 No.670
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うること。・沖縄経済成長のエンジン~「人材」、「創業」、「ネットワークの経済」の3つの要素を重視。・経済の自立は、孤立、閉鎖ではない。解放と相互依存の中にこそ自立はある。しかし一方的依存は隷属であり、自立ではない。経済の自立は、持続可能な発展のメカニズム(成長のエンジン)を内蔵することによって、その実現を図るもの。特に沖縄経済の自立は、その自然的地理的文化的条件、あるいは世界的な技術や思想の潮流からいって、交流と共生の中でしか育たない。交流と共生は多様性と接触機会を生み、それが文化と産業の創造へと繋がるところに21世紀への沖縄の道筋がある。・沖縄の自立のための戦略的産業として、交易型産業(農林水産業を含む)、文化交流型産業、情報通信産業。・人材育成、低コスト化に貢献するインフラ整備、規制緩和、創業支援の重要性。(「ここで創業支援の例として、沖縄振興開発金融公庫などによる(1)技術評価、(2)会計法務相談指導等の創業支援、(3)創業者同士の相互支援、(4)草の根の少額資金の融通マイクロファイナンスの試行などが検討に値しよう」と研究会の最終報告にあることは指摘・強調しておきたい。)である。20年たっても輝きを失わない、碩学の透徹した見識の高さに感服するとともに、沖縄振興については、やるべきことは20年前からはっきりしていると思わざるを得ない。何がそれを阻害しているのか、をより真剣に考える時期が到来しているように思われる。ただし、「子どもの貧困」に象徴される社会問題の解決は、最近まで、沖縄では明確な形で認識されてこなかった。このような社会問題の解決は、今後最も注力すべき課題であろう。1.で紹介した内閣府の「新たな沖縄振興策の検討の基本方向」でも、個別の事項の筆頭が「子どもの貧困」で、次に「教育」と続き、「産業の振興」がそのあとになっている。先に紹介した県*37) 本書の中で、「・・直前の時代を克服しきれない社会と同じように、自分自身の中にも軋みを抱えつつ、新旧どちらか一色の価値観に染め上げられずに思考を続ける。そうした誠実なかたちで成熟を求めることのコストが、あまりに高くなっていった時代。それが平成だったのではないでしょうか」(533頁)としていることが目を引いた。*38) 初出:『図書新聞』2012年6月30日号(特集・「復帰40年の現在」)民意識調査でもそれは明確である。おわりに新刊『平成史―昨日の世界のすべて』(文藝春秋社)*37を「歴史学者」として著す最後の著作として世に問うた與那覇潤氏は、2013年4月28日にヤフーの個人ブログに投稿した「反転する理念への投企 沖縄『復帰』40周年から、主権『回復』式典へ」と題する論稿*38で、まず「沖縄について論じるのは常に気の重い仕事である」とする。また、博士論文(のち『翻訳の政治学 近代東アジア世界の形成と日琉関係の変容』(2009年 岩波書店))では、「1990年代以降、沖縄(や北海道/アイヌや台湾や朝鮮)を素材に『日本という国家に回収されない語り』を持ち上げて、違背者と見なされた既往の叙述の揚げ足をとる風潮があったが、他者の記述ばかりを批判して、自分は回収されたくないから何も語らないという態度ほど無責任なものはない。ナショナリズムは(キャピタリズムやデモクラシーとも類似するが)個々の思想という以上に政治・社会的な『体制』、メカニズムの問題であり、現実の情勢がナショナルな枠組みで動いている以上は、あらゆる語りが潜在的にはそこに『回収』されうる。むしろ必要なのは、『回収されたか否か』ではなく、『いかなる形で』回収されたかを問う営為だ、ということを記した」と述べる。そして同氏は、「かつて沖縄は『近代』の支配の構造の下でも、日本という理念の方を選んでくれた。そのことの意味を、私たち日本人がもう一度噛みしめる時が来ていると思う」というのだ。日本が「魅力ある国家理念」を提示できるか、が死活的に重要なのだ。沖縄振興を考える上でもこの点を常に忘れてはならないと思う。本稿の資料作成において、武田浩徳・前沖縄振興開発金融公庫総務部総務課上席調査役(現・主計局主計官補佐(内閣・デジタル・復興))を煩わせた。記して感謝したい。ただし、ありうべき誤りなど文責は筆者にある。 ファイナンス 2021 Sep.27「沖縄振興の5年間」雑感SPOT

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