ファイナンス 2021年9月号 No.670
30/98

需要の予測や跡地間での機能分担を踏まえた、長期的かつ広域的な跡地利用の戦略の立案が必要になる」と指摘している。基地跡地利用について、沖縄県は「中南部都市圏駐留軍用地跡地利用広域構想」(平成25年1月公表)以降、地元での具体的な取り組みが弱いように思う。県のホームページに記載されているこの構想のパンフレット(平成31年3月改定版)でも「今後大幅な人口増が見込めない中で、これまでと同様な手法では、跡地相互の競合による全体発展の阻害、良好な環境形成につながらないことが懸念されます」と記載されている。今後の積極的な取り組みに期待したい。6経済の自立に向けて全国比でいう「1%経済」である沖縄経済を、ながらくきちんと分析してその成果を世に問うている経済学者として、嘉数啓・琉球大学名誉教授と、来間泰男・沖縄国際大学名誉教授を紹介したい。お二人とも、同調圧力が強いように感じる沖縄の言論空間の中で、しっかりと自らの立ち位置をもって活動されていることに、お二人に比べればまったくの若輩者であるので僭越ではあるが、筆者は最大限の敬意を表したい。嘉数啓氏は、元沖縄振興開発金融公庫副理事長でもあるが、現行の沖縄振興策の理論的支柱の1人で、島嶼学を提唱している。「啓発された楽観主義」をモットーとする*30。嘉数氏による沖縄振興開発金融公庫の「公庫レポートNo.126(2013.02)」(沖縄:新たな挑戦 経済のグローバル化と地域の繁栄 世界の目を沖縄へ、沖縄の心を世界へ)は、10年近く前の著作であるが、沖縄経済を語る上での出発点とすべき労作である。また、続く『島嶼学への誘いー沖縄からみる「島」の社会経済学』(2017年 岩波書店)、その続編となる『島嶼学(Nissology)』(2019年 古今書院)*30) バイキングの末裔ゲーリック人の教え(マン島に在住)「Whatever I am thrown、I stand on my own feet.」*31) 『琉球王国の成立と展開 よくわかる沖縄の歴史』(2021年 日本経済評論社) 「おわりに」で、「私の議論は沖縄の弱さ、遅れをかき立てていると読む人が多いと思う。違う。事実はどうだったのかという追究の中で遅れや弱さをあぶりだしてしまったということだ。私は沖縄を愛している。しかし、弱さを含めて沖縄の事実に即して理解し、愛する。沖縄を好きだから、良いところだけ見るというやり方は私にはできない。予断を持って歴史をみてはいけない」(204頁)とする。この姿勢は、注32に掲げた経済関係の著作にも貫かれている。*32) 『沖縄の農業 歴史のなかで考える』(1979年 日本経済評論社)、『沖縄経済論批判』(1990年 日本経済評論社)、『沖縄経済の幻想と現実』(1998年 日本経済評論社)、『沖縄の覚悟:基地・経済・“独立”』(2015年 日本経済評論社)は、沖縄振興を考える上で必読だろう。*33) 「復帰10年の沖縄」(1982年初出)(『沖縄経済論批判』(1990年 日本経済評論社))*34) 初出:「よくわかる沖縄の歴史 社会変化を読み解く(63)日本と琉球の社会、どう違うのか(10)」(琉球新報2019年9月20日朝刊)。注31の著作200~201頁。*35) 香西氏が注25で触れた『統治の倫理 市場の倫理』を翻訳して日本に紹介した方であることには、偶然とはいえないものを感じる。*36) 前出。安達俊雄・初代沖縄振興局長のオーラルヒストリーより(「沖縄開発庁および沖縄振興開発計画 オーラルヒストリー(3) 研究代表者 早稲田大学政治経済学術院教授 江上能義 (2016年1月発行)」)も必読であろう。一方、来間泰男氏は、最近は歴史研究にいそしまれている*31が、現行の沖縄振興策へのもっとも鋭い批判者*32であり、このような本質的な批判を吟味して活かすことが肝要と思う。「かつて、アメリカ軍占領下の沖縄については、誰もが同じ説明をした。そこには現状認識の共通性があった。しかし、いまはちがう。復帰後の沖縄についての現状認識は分裂している。・・」*33との来間氏の指摘は、40年前の指摘ではあるが、いまだに通用すると考える。また、「沖縄の社会のあり方や、人びとのものの感じ方・考え方が、日本のそれとは異なっていて、なかなか同一にはなれないということを、しっかり見つめることの必要である。そのうえで、その差異のゆえに対立し分離していくのではなく、その差異をお互いに認め合ったうえで、連帯していくべきであろう」*34との問題提起には、はっとさせられる。お二人が、総合研究開発機構(NIRA)が行った「沖縄振興中長期展望についての検討調査」研究会(座長:香西泰氏)*35(1997年9月~1998年3月)に委員として参加していることに筆者は注目する。この研究会は、1997年4月に沖縄県が設置した「産業・経済の振興と規制緩和委員会」(座長:田中直毅・21世紀政策研究所理事長)により提言された県内への輸入関税や消費税、輸出手続き料などを免除する「全県フリーゾーン」案が、様々な反対を生み、混乱したことを収拾して、沖縄振興の方向を落ち着かせるために開催されたという*36。この研究会の最終報告(1998年3月)には以下のような見解が示されている。・自立経済とは~経済発展の動因(成長のエンジン)を自己の経済構造に内蔵し、それを自己の経済循環の中から絶えず再生産し、持続可能な発展に進化し26 ファイナンス 2021 Sep.SPOT

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る