ファイナンス 2021年9月号 No.670
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観光・リゾート地の形成」(15.5%)、「米軍基地問題の解決促進」(9.5%)となる。3位までの単純合算では、「子どもの貧困対策の推進」(42.1%)、「米軍基地問題の解決促進」(26.2%)、「魅力ある観光・リゾート地の形成」(26.1%)となり、審議会への報告資料や初出の公表資料はこの集計値を使用している。しかし、1位から3位に点数を付して加重平均すると、「子どもの貧困対策の推進」(15.1%)、「魅力ある観光・リゾート地の形成」(10.3%)、「米軍基地問題の解決促進」(8.3%)となり、「健康福祉社会の実現」(7.6%)の4位が3位に迫ってくる。また、年齢別の回答を見ると、40代までは、「子どもの貧困対策の推進」が他の回答を引き離し圧倒的1位である。50代で、「子どもの貧困対策の推進」に「米軍基地問題の解決促進」が追い付いてきて*25、60代で、「米軍基地問題の解決促進」と「子どもの貧困対策の推進」が逆転する。中央メディアの特派員的目線からすれば、「戦争と基地の島」という観点ばかりになりがちだが、沖縄で現実に生きている県民の意識はきわめて「複雑」である。5観光収入VS基地収入、跡地利用の経済効果政治的な対立の激しさは、統計数値の取り扱いにも及んでいる*26。拙稿「『魅せる沖縄』の今後~沖縄経済の現況を踏まえて」(ファイナンス2019年5月号)で指摘したので、詳細は繰り返さないが、沖縄県が県民経済計算の参考資料で作成している「基地収入」と「観光収入」のうち、「観光収入」は、沖縄県が別途アンケート調査している「観光消費額」に過ぎず、「県民経済計算の概念を考慮した数値」でもない。平仄が合わない「基地収入」と「観光収入」を並べてみても生産的なものは出てこない。*25) 新城和博著『ぼくの沖縄<復帰後>史プラス』(ボーダーインク 2018年)は、2021年の「この沖縄本がすごい」に選ばれた。1963年生れの著者が、1972年の本土復帰の後に起きた社会的な出来事と著者の経験を綴ったエッセーであるが、沖縄の世代の感じを知る最良の1冊だろう。新城和博は、沖縄本を代表する出版社であるボーダーインクの編集者としてもよく知られる。*26) 『統治の倫理 市場の倫理』(ジェイン・ジェイコブス著 香西泰訳 ちくま学芸文庫2016年 原著は1992年)が示唆深いので紹介しておく。沖縄では、このような経済的なものの細部においても、「統治の論理」が優越しすぎているように感じる。 ○統治の倫理~目的にためには欺け、復讐せよ、排他的であれ ○市場の倫理~正直たれ、契約を尊重せよ、他人や外国人と気安く協力せよ ジェイコブスは、両者はしばしば相互に矛盾し、対立するとし、2つの倫理を混同すると「救いがたい腐敗」が生じるという。*27) 観光庁ホームページの「共通基準による観光入込客統計」 https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/irikomi.html*28) 観光庁ホームページの「共通基準による観光入込客統計」のサイト中、「全国観光入込客統計のとりまとめ状況」の、令和3年7月30日更新分で令和3年8月23日に確認。*29) 「概要版」59~60頁。https://www.pref.okinawa.jp/kichiatochi/keizaikouka-ga.pdf「収入」という用語が誤解を招いている。北海道などの例に習い、「観光消費額」と改称すべきではないだろうか。加えて言えば、観光庁は、都道府県の観光消費額を統一した基準で公表する取り組み(共通基準による観光入込客統計)をしており*27、沖縄県も、平成22年4月から導入しているはずなのだが、平成26年4月以降の数値は「集計中」となっている。観光業が県経済に占める重要性に鑑みれば、北海道をはじめ他地域との比較検討も重要だと思うのだが。同じく推計上の特例を認められている北海道は、平成30年7-9月期までは公表している*28。また、同じく、基地跡地利用に伴う経済波及効果についても、その根拠とされるのは、野村総合研究所・都市科学政策研究所への平成18年度の委託調査「駐留軍用地跡地利用に伴う経済波及効果等検討調査報告書(平成19年3月)」であり、ネットからはその概要版しかみることができないが、次のような留意事項が記載されている*29。「(1)跡地利用によって、当該地域の周辺地域にマイナスの影響を及ぼす場合があるため、影響を緩和する手立てが必要になること(例:那覇新都心地区の成長と国際通り商店街の停滞)(2)中長期的には財政的にプラスになるものの、(市の場合)財政支出の発生時期と経済効果発生(税収増効果)の時期がずれるため、地区の概成初期~中期段階においては、財政支出が税収による財政収入をかなり上回ること(財政負担が大きい)。(3)今後の人口推移等を考慮し、地区整備のビルトアップ率が低くなると仮定すると、財政的にプラスになる時期が大幅に遅くなること」また、返還予定地が、今後の沖縄県中南部の宅地需要の将来展望からしてかなり大きいと推計されていて、「返還跡地間での住宅や商業・業務機能をめぐる需要(パイ)を奪い合わないようにするために、立地 ファイナンス 2021 Sep.25「沖縄振興の5年間」雑感SPOT

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