ファイナンス 2021年9月号 No.670
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治法(昭和22年法律第67号)第252条の17の2の規定により、市町村が処理することとする。」としている。他方で、地方自治法第252条の17の2は、その第2項で、「前項の条例(同項の規定により都道府県の規則に基づく事務を市町村が処理することとする場合で、同項の条例の定めるところにより、規則に委任して当該事務の範囲を定めるときは、当該規則を含む。以下本節において同じ。)を制定し又は改廃する場合においては、都道府県知事は、あらかじめ、その権限に属する事務の一部を処理し又は処理することとなる市町村の長に協議しなければならない。」としている*22。この地方自治法で定める「あらかじめ」の「協議」について、同法の権威ある解説本『新版 逐条地方自治法 第9次改訂版』(松本英昭著 2017年11月 学陽書房)は、「第二項の「協議」は、市町村長の同意までを必要としないものであるが、運用上は、都道府県と市町村との間で十分協議し、両者合意のうえで市町村が処理することとなるものと思われる。なお、協議を行う場合は、都道府県の事務権限の配分先である市町村と個別の協議が必要である」(同書1358頁)としている。条例が制定される前に市町村の担当者を県が呼び集めて説明をしたということはあったが、上記の解釈によれば、これは「事前協議」とは言えないだろう。当時、新装なった沖縄県立図書館には所蔵されていなかったので、市民が知らないのは仕方がないとしても、行政的にきちんと本条が運用されていたのかについては、大いに疑問がある。よもや「目的が正しければ、多少の手続的不備も正当化される、心が大切だ」とでもいうような、巷間ではありがちな自己正当化のワナに行政が陥っていなかったか。ロールズの研究でも知られる法哲学者の田中成明京都大学名誉教授は著書『法理学講義』(1994年)において、手続的正義は「従来、『目的は手段を*22) 地方自治法の該当条文を念のため下記に掲げておく。 (条例による事務処理の特例) 第二百五十二条の十七の二 都道府県は、都道府県知事の権限に属する事務の一部を、条例の定めるところにより、市町村が処理することとすることができる。この場合においては、当該市町村が処理することとされた事務は、当該市町村の長が管理し及び執行するものとする。 2 前項の条例(同項の規定により都道府県の規則に基づく事務を市町村が処理することとする場合で、同項の条例の定めるところにより、規則に委任して当該事務の範囲を定めるときは、当該規則を含む。以下本節において同じ。)を制定し又は改廃する場合においては、都道府県知事は、あらかじめ、その権限に属する事務の一部を処理し又は処理することとなる市町村の長に協議しなければならない。(以下略)*23) 残念なことは、特派員的立場で冷静な報道をすべき中央メディアが、このような事態を知りつつきちんと報道していないように感じられたことだ。県民投票を推進する立場を、進んだ民主主義社会を実現する「正義」と位置づけ、そうでない立場を「守旧派」または「抵抗勢力」と位置づけるような、対立図式を好む嫌いがあったように感じられた。*24) 沖縄県ホームページ「県民意識調査(くらしのアンケート)結果の公表について(2019年4月22日更新) https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/seido/h30chousa.html正当化する』とか『結果よければすべてよし』などと言われ、実質的正義の実現の手段にすぎないとみられがちであった。だが、最近では、手続的正義の順守自体が、その結果如何を問わず、別個独立の固有の価値を持つことが一般的に認められるようになっている」と述べている。政治的対立が激しい沖縄の言論空間に接してきたこれまでの経験を振り返ってみても、そのときどきの政治的な有利不利で「手続的正義」がことさらに強調されたり、あるいは無視されたりと、一貫しないように感じられることがよくあった。この県民投票という一大政治イベントでの上記の経緯は、残念ながら沖縄においても「分断の世紀」を象徴する出来事のように思われた*23。例えば、沖縄県内で新たに企業活動を始めようとする者の視点から考えた場合、沖縄県内のあまりの政治的対立の激しさは、県内の政治的な文脈からひとたび「炎上」などすれば、県当局において企業活動に関する手続的正義が反故にされるなどして活動が阻害される可能性もあると、みられてしまわないだろうか。4第10回県民意識調査(平成30年8月調査)*24について沖縄県では、県民の意識や価値観、ニーズ等の変化の状況を把握し、県政運営に役立てるためとして、昭和54年から概ね3~5年ごとに県民意識調査を行っている。第10回調査では、「子どもの貧困対策」に関する質問を設けた。「沖縄県の施策として、特に重点を置いて取り組むべきことはどのようなことだと思いますか?」という設問に、3つの項目までを選択するという質問形式である。沖縄県の取りまとめでは、3位までの項目を合算して紹介しているが、1位で回答があったものを並べると、「子どもの貧困対策の推進」(15.7%)、「魅力ある24 ファイナンス 2021 Sep.SPOT

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