ファイナンス 2021年9月号 No.670
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けるかが問われていくだろう。例えば、現実を単純化するイメージ、隠蔽するイメージに違和感をおぼえたならば、オールタナティブとして、より複雑でリアルなイメージをいかに代置できるかどうかが、問われるだろう。」沖縄経済については、慎重に経済数値などを分析・検討し、単純なイメージに流されない強さを持って取り組んでいけるよう精進したい。】と。*9また、筆者は同号で、続けて次のように記した。【一方、同じく「はじめに」で紹介した石戸氏の「OKINAWAN RHAPSODY 僕たちは、この島を生きている」であるが、結論部分で「冒頭、表層的な政争のさらに奥にある現実、「複雑」の心底に何があるのか知りたいと書いた。見えてきたのは、「複雑」の奥にあるシンプルな本質だ。沖縄の問題は『米軍基地が多すぎる、経済が弱すぎる』ということに尽きる」と喝破する。この指摘の「経済が弱すぎる」ということを真摯に受け止め、沖縄振興においても、少しでも経済的な不幸を改善していければと改めて考えた。】(下線は筆者付す。)と。この「少しでも経済的な不幸を改善していければ」と記した筆者の願いは、この新型コロナウィルスの感染拡大で、その実現に向けた動きが遺憾ながら停滞する結果となった。しかし、謂わば止血をまさに懸命に行なうことは当然であるが、並行して、この未曾有の経験こそを、皆でもう一度、沖縄経済を冷静に見詰め直し、その後に備える契機とすべきである*10。(2)福島県人と沖縄筆者は、1963年に福島県平市(現いわき市)に生まれ、親の仕事の都合により福島市で4年間過ごし、小学校を卒業してからは、再び高校卒業までいわき市に在住していた。沖縄には、社会人になってから何度*9) 直近の筆者の沖縄経済についての見方は、「月刊事業構想」2021年3月号「沖縄県特集」の中の、筆者のインタビュー記事「政策金融から見た沖縄の可能性と課題」(112頁~113頁)を参照されたい。また、この5年間の沖縄関連の拙稿については、ファイナンス2020年11月号の拙稿「新型コロナウィルス感染下の沖縄経済の状況及び今後の中長期的な課題について(下)」の末尾に一覧を掲載した。*10) 「ポリタス『沖縄県県知事選2018』から考える」に寄稿された、先崎彰容氏(日本大学危機管理学部教授)の「沖縄を語る「文体」の乱れ」(2018年9月27日付)。 https://politas.jp/features/14/article/614 先崎氏は、「7年前の『フクシマ』にいた」という体験を背負う者としての立場から、「私たち本土の人間にとって、沖縄問題とは何か感情を刺激して止まないもの、本土/沖縄という二分線を聞く感情を喚起させる「民族問題」になってしまうのだ。「民族感情」というものを、右翼の専売特許だと考えるのは誤りだ。反政府的な立場であっても、沖縄という言葉に触れるだけで、私たちの心が揺さぶられ、「文体」が乱れることがある。このとき、私たちはいつの間にか、「民族感情」の虜になってしまっているのである」という。先崎氏は、「とにもかくにも動揺しないこと」、「みずからの『文体』の乱れ」を律すること、に重きを置く。*11) 文化庁月報No.517(平成23年10月号)連載「鑑 文化芸術へのいざない」京都・檀王法林寺開創400年記念 琉球と袋中上人展―エイサーの起源をたどるー https://www.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2011_10/series_01/series_01.htmlか観光や仕事で訪問したことはあるが、かつては、それほど深い関心があったわけではない。沖縄振興の仕事に関わるようになって、沖縄の歴史を勉強する際に、福島県(地域)にゆかりのある者との御縁ということで調べてみると、意外と興味深い人物に行き当たったのでご紹介しておきたい。1人は、袋中上人である*11。袋中上人は、1552年磐城国(現福島県いわき市)生まれ。1603~1606年に琉球に滞在し、第二尚氏王統第7代国王・尚寧王の信頼を得て、浄土宗の布教を行った。琉球への薩摩藩の侵攻後の1611年に京都で尚寧王と再会している。袋中の伝えた念仏は、沖縄で旧盆に先祖送りのために踊られるエイサーのなかに、念仏歌として受け継がれたとされる。また、琉球の士族、馬幸明の依頼で著した『琉球神道記』等、古琉球時代の琉球を知ることのできる貴重な著述を遺した。もう1人は、島尾敏雄である。両親が福島県小高町(現南相馬市)出身で、本人は東北のルーツを重んじていた。敏雄はしばしば小高を訪れ、小高を「いなか」と呼んで親しんだという。代表作に『死の棘』がある。同郷人の埴谷雄高との親交も知られる。琉球弧・ヤポネシアという魅力的な視野を提示している。ファイナンス2020年11月号に寄稿した「新型コロナウィルス感染下の 沖縄経済の状況及び 今後の中長期的な課題について(下)」で、筆者は次のように記した。【両親が福島県の小高地区出身ということで、自らを東北にルーツを持つものとしていた、作家の故島尾敏雄は、「琉球弧」(島尾にあっては、奄美諸島、沖縄本島を中心にした沖縄諸島、宮古諸島、八重山諸島などをひっくるめたもの)という視点の重要性をつとに強調していた。「私の考えている日本国は琉球弧も東北も共に処を得たそれだ。殊に琉球弧、就中沖縄は一 ファイナンス 2021 Sep.21「沖縄振興の5年間」雑感SPOT

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