ファイナンス 2021年9月号 No.670
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内総生産や就業者数が全国を上回る伸びを示したほか、社会資本の整備等の面で本土との格差が縮小するなど、一定の成果が見られた。しかしながら、一人当たり県民所得が全国最下位にとどまるほか、子供の相対的貧困率が全国を大きく上回る水準にあるなど、法が目的とする沖縄の自立的発展と豊かな住民生活の実現に向けて依然として様々な課題が存在しており、今一度、法的措置を講じ沖縄振興策を推進していく必要がある。また、沖縄の離島は、近年特に、我が国の広大な領海及び排他的経済水域の保全にも極めて重要な役割を果たすようになってきていることにも注目する必要がある」としている。河野沖縄担当大臣は、今後、この「基本方向」に沿って概算要求及び税制改正要望に向けて検討を進めるとともに、令和4年の通常国会への法案提出に向けて準備を進めていきたい旨を述べた。その前日の8月23日、第36回沖縄振興審議会が開催され、審議会の下に置かれた総合部会専門委員会が取りまとめた「最終報告」について報告を受けるとともに、今後の沖縄振興に関する審議会の「意見具申(案)」について意見交換を行い、審議会の高橋進会長から、政府に対する「意見具申」が河野沖縄担当大臣になされた*5。並行して沖縄県での検討も、沖縄県振興審議会を中心に進められている*6。今後、令和4年度以降の沖縄の振興に向けて、令和4年度予算編成プロセス等を経ながら、さらに検討・調整が本格化していくことが見込まれる。2沖縄への向き合い方に関する考察など(1)沖縄への向き合い方文芸評論家として活躍している齋藤美奈子氏は、『忖度しません』(筑摩書房 2020年9月)*7の「わかったつもりになっちゃいけない、地方の現在地」で、沖縄に関わる新書3冊(『消えゆく沖縄』(仲村清司著 *5) https://www8.cao.go.jp/okinawa/9/2021/20210823.html*6) https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/kikaku/shingikai.html*7) 「ちくま」の「世の中ラボ」連載をまとめた第3弾。初出は2017年3月号。*8) 「社会学評論第67巻第4号 特集号・沖縄と社会学」(日本社会学会編 2017) https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jsr/67/0/_contents/-char/ja ~沖縄をこの媒体ではじめて特集した。社会学者である岸政彦氏は、『はじめての沖縄』(2018年)の終章の最後で、「語らなければならない。私たちは、沖縄について語る必要がある」といい、「これまでの定型的な話法からはみ出すような、沖縄の人々の多様な経験や、基地を受け入れさえするような複雑な意思を、そのままのかたちで描きだすこと。さらに、そうした多様性を、沖縄と日本との境界線や、日本がこれまで沖縄にしてきたことの責任を解除するような方向で語らないこと」とする。「いまだ発明されてない、沖縄の新しい語り方が存在するはずだ」というのは常に念頭におくべきものだろう。光文社新書 2016年)、『沖縄問題』(高良倉吉ほか著 中公新書 2017年)、『沖縄の不都合な真実』(大久保潤・篠原章著 新潮新書 2015年)をとりあげている。そこで、「<「戦争と基地の島」「自然の楽園」というイメージは沖縄の一面であり、一種の幻想です。この沖縄幻想を支えているのが本土のマスコミや沖縄フリークの学識者です。この構図が沖縄問題をややこしくしています>とは、『沖縄の不都合な真実』の一節だが、立ち位置こそちがえ、他の二冊にも根底には同様の戸惑いが流れているように思われる。沖縄についてあれこれいう人は以前に比べて随分増えた。だが、私たちは自分の思いを沖縄に勝手に仮託していないだろうか。少し反省いたしました」(p153 下線は筆者付す。)としていることに注目したい。社会学の方面からは、宮城能彦・沖縄大学人文学部教授が、「沖縄村落社会研究の動向と課題―共同体像の形成と再考」*8の締めくくりで、「いずれにせよ、沖縄という地域はさまざま意味や視角から社会学者にとってテーマの宝庫であることは間違いないようである。だからこそ、問題の設定の時点で調査者の価値観・思い入れが顕在的・潜在的に入り込んでくることに対する意識も重要となってくる。沖縄は研究者が自己投影しやすいフィールドである。しかし、このような指摘すらもすでに多く語られてきたことではある。沖縄を研究するということは、このような複雑で煩わしい作業と向き合うことなのかもしれない」(下線は筆者付す。)と述べている。ファイナンス2019年5月号に寄稿した、拙稿「『魅せる沖縄』の今後~沖縄経済の現況を踏まえて」の最後の部分で筆者は次のように記した。【再び、「はじめに」でも引用した多田氏の「沖縄イメージ」についての考察を引きたい。「イメージの円環、消費社会の円環の外へ、自分だけが抜け出すことは困難だ。むしろ、その円環の内部に踏みとどまり、こうしたイメージ込みの現実と、いかにつきあってい20 ファイナンス 2021 Sep.SPOT

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