ファイナンス 2021年9月号 No.670
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はじめに筆者は、2016年6月から2021年6月までの5年間にわたり、沖縄振興に関わる仕事についた*1。この5年間について、地元紙が年末に行ういわゆる「今年の10大ニュース」を参考に、2016年から2021年前半のトピックを私なりに整理したものが、表1になる。2000年代初頭、初代の沖縄振興局長などを務めた安達俊雄氏は、「沖縄というのは私に言わせると、問題総量不変の原則っていうか、一所懸命に課題に取り組んで解決しても、次から次に新しい問題が泉のように湧いてきて問題の総量は減らないというのが、沖縄の仕事をしていての実感でした」*2と回想している。筆者が沖縄振興に関わった5年間は、経済的には、インバウンドの絶好調から、「観光公害」が問題視されはじめ、新型コロナウィルスの感染拡大により一転して不振に陥るという大きな激動の時期であった。東京と沖*1) 最初の1年間は、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当、兼沖縄科学技術大学大学院大学企画推進担当)、残りの4年間は沖縄振興開発金融公庫副理事長、という立場である。*2) 安達俊雄・初代沖縄振興局長のオーラルヒストリーより(「沖縄開発庁および沖縄振興開発計画 オーラルヒストリー(3) 研究代表者 早稲田大学政治経済学術院教授 江上能義 (2016年1月発行)」)。*3) 沖縄振興開発金融公庫には、東京事務所として「東京本部」があり、基本的には東京で執務を行ったが、原則毎月1回の役員会出席などで沖縄に出張するというかたちであった。コロナ禍の影響がなかった時期は、だいたい1年間の5分の1程度を沖縄で仕事をした計算になる。 ここで、多田治著『沖縄イメージを旅する』(中央公論新社 2008年)の「ツーリストという立場」に注目したい。社会学者ディーン・マッカネルの視点を借りて、「高度に細分化し、全体を見通すのが困難なほど複雑化・不透明化した近代の社会に対して、表層的にであれ、外側から全体像を見渡し、垣間見る立場にあるのがツーリストなのだという」とする。筆者も沖縄振興開発金融公庫に在籍した4年間は、東京と沖縄を行き来するという「ツーリスト」的な立場であったと思う。そのような視点が少しでも本文に出ていれば幸いだ。*4) https://www8.cao.go.jp/okinawa/9/2021/20210824.html縄を往復しながら、社会学の文脈で謂う「ツーリスト」的なものの見方でこの5年間について感じたことを示すことで、今後の沖縄振興に少しでも参考になればと思う次第である*3。1最近の沖縄振興をめぐる動き沖縄振興を担当する内閣府は、8月24日に「新たな沖縄振興策の検討の基本方向について」を公表した*4。この文書の冒頭「新たな沖縄振興策の必要性」は、「現行の沖縄振興特別措置法では、沖縄の特殊事情に鑑み、県・市町村など地元の取組を支援する一括交付金や高率補助、特区・地域制度など様々な特別措置が設けられ、これらとあわせ国として必要に応じ個別の補助事業等を実施することにより沖縄振興策は推進されてきた。これらの振興策により、現行の振興計画期間中、県渡部 晶「沖縄振興の5年間」雑感表1 沖縄県内の主なニュース沖縄県内ニュース2016年政治・経済地域芸能・スポーツ2017年2018年・観光好調、県内経済拡大続く。・有効求人倍率が統計開始以来、初めて1倍超える。・県が子どもの貧困率を29.9%と発表(1月)・沖縄県議会議員選挙(6月)・参議院選挙(7月)・県経済好調維持バブル越え・安慶田副知事辞任(1月)・辺野古で護岸工事着手(4月)・太田昌秀元知事死去(6/12)・衆議院選挙(10月)・渡具知武豊氏が名護市長選当選(2/4投票)・翁長雄志知事死去(10/9県民葬)・玉城デニー氏が新知事に(9/30投票)・辺野古埋め立て土砂投入(12/14)・与那国島に陸上自衛隊新部隊配備(1月)・米軍属による女性暴行殺人県民大会(6/19)・オスプレイ名護市安部に「墜落」(12月)・沖縄空手会館落成(3/4)・東村高江の民間地で米軍ヘリ不時着・炎上(10月)・普天間第二小米軍ヘリ窓落下体育中の運動場(12月)・西海岸道路が開通(3/18)・「玉陵(たまうどぅん)」国宝に(10月)・「パーントゥ」ユネスコ無形文化遺産に(11月)・第6回世界ウチナーンチュ大会(10月)・ゴルフの宮里藍さん引退(9月)・安室奈美恵さん引退(9/16、表明は前年9月)・西武、山川選手がパ・リーグ本塁打王とMVP沖縄県内ニュース2019年政治・経済地域芸能・スポーツ2020年2021年・県内観光客数1,000万人突破・オリオンビール買収(1月発表)・新基地県民投票7割が工事反対(2月)・参議院選挙(7月)・新型コロナで県経済に大打撃観光客激減、経済損失6482億円・那覇空港第2滑走路が利用開始コロナ禍で国際線ゼロに・新型コロナで県が緊急事態宣言小中高で一斉休校(4月、8月)・豚熱が34年ぶりに発生1万2千頭殺処分、全頭ワクチン接種(1月)・辺野古新基地で国が埋め立て変更申請を提出(4月)・日米首脳会談「台湾」を明記(4月)・沖縄県に「まん延防止」(4/12)・普天間合意25年(4/12)・下地前宮古島市長逮捕(5月)・沖縄県に国の緊急事態宣言(5/25)・牧志公設市場閉場(6/16)移転(7/1)・セブンイレブン沖縄進出(7/11)・モノレール浦添まで延伸(10/1)・首里城焼失(10/31)・「沖縄アリーナ」完成(2月)・首里城再建の道筋固まる(4月)・「ひめゆり平和祈念資料館」リニューアルオープン(4月)・世界自然遺産にやんばる・西表(5月)・西武・山川選手が2年連続でパ・リーグ本塁打王・沖縄初の芥川賞作家大城立裕さん死去(10月)・西武・平良投手がパ・リーグ新人王に輝く・NHK朝ドラ2022年度前期「ちむどんどん」と発表(3/3)琉球みやらびこけしと東北の 伝統こけしたち ファイナンス 2021 Sep.19SPOT

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