ファイナンス 2021年9月号 No.670
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「スマート税関構想2020」の 背景となった6つの環境変化税関には、3つの使命がある。それは(1)安全・安心な社会の実現、(2)適正かつ公平な関税等の徴収、(3)貿易円滑化の推進だが、税関を取り巻く環境は大きく変化しており、20年後、30年後も国民の期待に応えていくためには、税関業務の高度化・効率化を進めるとともに、利用者への一層の利便向上を図ること、及び関税局・税関の職員一人ひとりが自らアイデアを出し、業務改善を考え、将来像について考えていく文化を醸成していくことが重要となる。そこで関税局では、AI等の先端技術も導入し、引き続き税関の三つの使命を適切に果たすとともに、国民の視点に立って、税関手続等における利便性の向上を図るなどにより、「貿易の健全な発展」、「安全な社会」、そして「豊かな未来」を実現する「世界最先端の税関」を目指すことを目的とした税関行政の中長期ビジョンとして取りまとめたものが「スマート税関構想2020」だ。この取りまとめは、税関行政の中長期構想の第一歩であり、今後も環境変化の状況を把握し、また、諸外国税関の取組も参考にしつつ、検討を継続するとともに、必要な見直しを行っていく予定だ。まず、「スマート税関構想2020」の背景となった、税関を取り巻く6つの環境の変化を紹介しよう。(1)モノの流れスマートフォン等の安価に入手できるデバイスの普及、インターネット人口の増加等により、モノの流れが拡大傾向にあり、世界の越境電子商取引の市場は今後も拡大が予想される。また、通販サイトでの購入が増加し、輸出入物品の小口化・個人化が進むと想定される。さらにEPAの締結による貿易の拡大、船舶の大型化及び海上輸送網の構築による海上貨物の動向の変化も見込まれる。(2)ヒトの流れ政府は2030年に訪日外国人旅行者数を6,000万人とする目標を掲げているほか、日本人が海外旅行に出かけやすい環境を整え、国際相互交流の推進を図るための取り組みを進めており、今後、日本人の出入国者数の増加も予想される。(3)カネの流れ昨今、いわゆる暗号資産と呼ばれる決済機能を有し、かつ、デジタル情報技術を活用した資産が出現している。今後、法定通貨に代わり、暗号資産による貨物代金の支払いが一般化すると、暗号資産をどう課税標準として評価するのかといった課題に直面する可能性もある。また、政府を挙げてキャッシュレス化を推進しており、旅具通関においてクレジットカードやスマートフォンによる納税を可能とする必要性が高まっている。(4)社会構造の変化及び災害リスク等今後の日本の総人口は、生産年齢人口(15歳~64歳)も含め減少すると推計されている一方、様々な少子化対策、定年の引上げなどの動きがあることから、社会構造の変化が地域経済等に影響すると考えられる。また、テレワーク等の多様な働き方を可能とする環境整備、台風や地震等のリスクへの備えのほか、新型コロナウイルス感染症流行のような状況にも備えておく必要がある。(参考)2020年6月に公表された「スマート税関構想2020」の全体像貿易の健全な発展、安全な社会、 豊かな未来を実現する最先端の税関へ6 ファイナンス 2021 Sep.

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