ファイナンス 2021年8月号 No.669
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(1)トッププレーヤーの社長指名と強化これまでは、オペレーショナル・エクセレンスの延長上、つまりオペレーションのことをずっと真面目にやった優秀な人が偉くなっていきます。もちろんこうした人はCOOとしては必要ですが、今問われているのは、ビジネスモデルを変える、事業ポートフォリオを入れ替える、組合からの反発やマスコミからの批判があっても、厳しい意思決定を未来に向かってしていかなければならない人材をどうやって確保するのか、ということです。そのために、社長指名や将来リーダー層の採用・育成などの改革が必要です。(2)新規事業の立ち上げデジタル的なものを立ち上げようとすれば、陸海空連動型の組織の立ち上げが必要になります。しかし、これを本気でやろうとすると、新規事業のチームの中に弁護士、会計担当、テクノロジー担当、営業担当というように多様なメンバーを配置しなければなりません。かつ新規事業はスピードが大事ですので、その場で次々と意思決定していく必要があります。例えば法的な問題が起こった際に、いちいち本社に伺いを立てるようでは勝負になりません。初めからチームの中に弁護士を配置するとなれば、採用の仕組みが従来のままではできませんので、人材の採用・育成などの改革が必要になります。このように、個別のテーマを徹底的に掘り下げ、連鎖的にリアクションを起こしていくことで本格的なCXに繋がっていくのが現実的な流れであると思います。13. 日本経済復興の本丸は ローカル経済圏今まで述べてきたことはグローバル企業、ローカル企業に共通した課題ですが、ここからはローカル企業固有の話をいたします。ローカル経済圏、中堅・中小企業経済圏こそが今後の日本経済の主流です。GDPの7割、雇用の8割をローカル経済圏が占めており、この比率は今後上昇していきます。このセクターは生産性が低いという問題がありますが、低いからこそ伸びしろがあり、労働生産性を倍にできれば、この7割の経済圏のGDPが倍になります。今、コロナ禍で明らかにG型産業からL型産業に流れは変わりつつあります。また、エッセンシャルワーカーという言い方で、このL型産業を進めている人たちに対する重要性が再認識されています。日本は、もう一度グローバルな企業に中間層雇用を戻そうという議論をしていますが、これはナンセンスで、もう一度中間層雇用を創り出したいのであれば、L型産業の生産性を上げるしかありません。そのためにローカルCX、DXが大切です。では、なぜローカル経済圏の生産性が低いのかというと、4つの理由、基礎疾患があります。会社の数が多すぎること、封建的経営病、どんぶり経営病、自信過少・閉じこもり病です。こうした基礎疾患を克服するためには、経営を「分ける化、見える化」する、収支を把握する、もうからないことをやめる、もうかることに集中する、ということを行う必要がありますが、それができていません。そこで、「分ける化、見える化」ができている会社が、閉じこもった会社を買収し再編すれば良いと思います。14.IGPIの取組私たちIGPI(株式会社経営共創基盤)は、東北地方で最も人口減少が進んだ地域のバス事業を手掛け、CX、DXに取り組んでいます。コロナ禍でさすがに今の損益は赤字になっていますが、通常の営業キャッシュフローマージンは10%くらいのプラスです。それだけ基礎収益力が高い会社になりました。最近では和歌山県でエアポート事業も手掛け、世間で注目されているワーケーションや、顔認証を使ってどこでも買物ができる仕組みを導入しています。こうしたことを導入するためには、まずは当たり前のことを当たり前に「分ける化、見える化」しなければいけません。そうすると、このプロセスを通じて自然にDX的なテーマが生まれてきます。例えばこのバス事業では、ICカードを導入して路線別収支を把握し、路線合理化に役立てたり、バスロケーションシステム導入や、貨客混載、自動運転実現に向けた研究に取り組んでいます。66 ファイナンス 2021 Aug.連載セミナー

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