ファイナンス 2021年8月号 No.669
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カンオンラインですが、それをある意味では真似したのが後発のGAFAです。イノベーション投資の源泉は既存事業の稼ぐ力ですが、今でも「短期的利益と長期投資とはトレードオフの関係にある」というようなことを言っている人は会計リテラシーが乏しいと言わざるを得ません。投資の原資は、利益ではなくて営業キャッシュフローです。とりわけ破壊的イノベーションに向けた投資はリスクが大きく、営業キャッシュフローが大きくないと、未来投資などできるわけがありませんので、日本の会社もまずは営業キャッシュフローを大きくしないと世界に対抗できません。10.キーワードは「新陳代謝」米国はこの時代に勝ち組となり、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の日本を蹴落とし、巻き返したわけですが、30年前の米国時価総額ランキングを見ると、上位はいわゆる製造業の大企業で、非常に大きな中間層雇用を米国で創出していました。こうした会社がどんどん退潮していき、デジタル型の新しい会社が台頭しましたが、残念ながら、こうした会社は中間層雇用をほとんど生みません。私に言わせれば、これが今の米国の格差・分断の実相です。ですから、仮に日本がDX型のグローバルな新しい企業を数多く作ったとしても、そこから昭和の時代のように国内に再び中間層雇用が生まれるかというと、答えはNOです。ちなみに、欧州では既存の企業体が持っている事業ポートフォリオを入れ替えて、その結果としてその分野では世界一の会社になっているというケースが多くあります。これら2つを合わせて考えると、米国は産業レベルの新陳代謝が中心、欧州は企業内、企業間の新陳代謝が中心で、どちらもキーワードは「新陳代謝」です。それに対して日本企業は終身雇用ですから、40年に1回しか人材は新陳代謝せず、なかなか事業の売却もしない、加えて事業ポートフォリオの入れ替えにも時間がかかるという状況です。11. 両利きの経営システム、 社会システムへ破壊的イノベーションの時代には、どんどん新しいアーキテクチャーが出てきますので、多くのの事業領域において地上戦と空中戦の連動型競争になります。地上戦はどちらかというと改良型イノベーション、空中戦は破壊的イノベーションの勝負です。地上戦は日本企業の同質的・連続的組織特性と相性が良いですが、空中戦では多様的・流動的組織特性がないと戦えませんので、まさに「両利きの組織能力」がないとしんどいのです。これは会社だけでなく、社会もそうです。もはや新陳代謝が不可避ですので、会社が潰れ、ある産業がなくなり、事業も入れ替わります。こうした新陳代謝をどんどん進めていっても、そこに巻き込まれた個人や経営者といった生身の人間が不幸にならない、包摂的な仕組みをどうやって再構築していくのか、これが日本の国家的命題であると思います。日本においては、経済危機の時に政府の金融支援政策が実行され、むしろ新陳代謝を妨げてしまいます。金融支援策を講じないと法人共助型社会である日本社会の底が抜けてしまいますので、やらざるを得ないことはわかりますが、これを繰り返していると経済危機が来るたびに産業構造や企業構造が固定化し、新陳代謝とは逆の方向に向かってしまいます。これでは成長しません。地上戦一辺倒であれば、新陳代謝サイクルが40年で、同質性、閉鎖性、メンバー固定制でも良いのですが、先ほど申し上げたサッカー領域、テニス領域、リズム・アンド・ブルース領域では、より多様性があり、開放的で、流動性があり、10年で人材が入れ替わる離職率10%程度の組織でないと対応していけません。当然に制度は多元的にならざるを得ず、いろいろなレベルで会社の大改造が必要になります。12.リアルCXの仕掛けどころコーポレート・トランスフォーメーションを実現するためには、現実の改革プロセスにおいて仕掛けどころがいくつか必要です。 ファイナンス 2021 Aug.65職員トップセミナー 連載セミナー

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