ファイナンス 2021年8月号 No.669
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5. 新しい産業アーキテクチャーへの破壊的転換デジタル革命や破壊的イノベーションの波をかぶると、産業におけるバリューチェーン上の付加価値が大きく変化する、いわゆる「スマイルカーブ現象」が起きるといわれています。つまり、川下(サービスプラットフォーマー)と川上(キーコンポネントサプライヤー)の付加価値は上昇しますが、川中(組み立て)の既存プレーヤーは、付加価値が下がることに加え、新興国キャッチアップモデルの追い上げで、ますます苦しくなります。従来の日本型製造業は川中にいます。逆に儲かるようになるのは川下のサービスプラットフォーマー会社で、典型的なのはマイクロソフト、GAFA、BAT、SAP、テスラ、最近では、NetflixやAmazon Primeです。川上では、標準CPU型、すなわちほぼ半導体の会社で、インテル、クァルコム、アーム、エヌビディア、ソニーなどです。これまで、自動車業界、電機業界、鉄鋼業界といった業界の産業構造はいずれもおにぎり型(ピラミッド型)で、自動車業界でいえば一番上にOEMがあり、その下にTier1、Tier2、Tier3がありました。しかし、デジタル革命の波が及ぶと、おにぎり型構造からミルフィーユ型のレイヤー構造に完全に変わります。顧客はリアル側の小売りだけでなくサイバー空間側にもいて、アプリがその代表例です。今後は、サイバー空間側が大きくなって、リアル側が縮小していく流れです。これは今まさにこの瞬間起きている現象です。いわゆる巣ごもり需要で日本人のテレビ視聴時間は間違いなく伸びていますが、だからといって民放各社や広告代理店の業績が良くなっているのか、テレビ製造メーカーが儲かっているのか、というと答えはNOです。テレビの視聴時間が長くなったからといっても、伸びているのはほぼNetixとかAmazon Primeのサブスクリプションで、サイバー空間側のレイヤーに人々はお金を払っているのです。したがって、従来型のモデルを前提とした発想ではなく、よくレイヤーを選定した上で事業展開しなければいけないのですが、このレイヤーはサッカー、このレイヤーはテニス、このレイヤーはリズム・アンド・ブルースというように、レイヤーによって種目が全く違います。ある会社が100年間野球をやってきたとします。上のレイヤーにサッカーがいて、そこから搾取される状況が起きると、このまま野球を続けても儲からないのでサッカーを始めようとしますが、野球選手としての技術は素晴らしくても、サッカー選手としての技術はありません。サッカーのレイヤーにいるGAFAのようなプレーヤーは、初めからサッカーをする人を集めてサッカー型の経営をしていきます。サッカーをやろうと思ったら、サッカーチームをゼロからつくったほうが早いわけです。サッカーと野球では選手の鍛え方も違いますし、最前線で選手に与えられる裁量、責任の範囲が全く違います。野球ではキャッチャーが一球ごとにサインを出しますし、攻める場合にはベンチからも指示が出ますが、サッカーは、パスを出すのか、シュートを打つのか、といった最前線でもっとも重要な判断を連続的瞬間的に行う必要があります。20年、30年かけて、ゆっくり野球チームをサッカーチームに変えることは可能ですが、時代ははるかに速いスピードで変化しますので、会社の形そのものをすぐに変えていかないと時代についていけなくなります。6. DXが拡張・加速する中での 日本経済復興いま、DXという言葉が飛び交っていますが、「ハンコをなくす」などは本質的なことではありません。DXが進んだ結果、産業大変容の時代なのです。様々な産業でゲームチェンジ、産業のアーキテクチャーそのものが変わり、産業は知識集約型、ソフト型、サーヒス型になって、パラダイムシフトが起きるでしょう。こうした時代に対応するためには、会社のカタチを抜本的に変える「コーポレート・トランスフォーメーション」(CX)が必要です。私は、財の生産と消費が別の場所あるいは別のタイミングで行われるtradable goodsを扱うグローバル産業をG型産業、それに対して地域密着型産業、財の生産と消費が同時同場で行われる産業をL型産業と呼んでいます。 ファイナンス 2021 Aug.63職員トップセミナー 連載セミナー

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