ファイナンス 2021年8月号 No.669
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財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute1.はじめに私は以前、産業再生機構のCOO(業務執行最高責任者)を務めた時代以来、JALなどのグローバル企業から地域のバス会社や旅館などのローカル企業まで、様々な業種の企業再生に携わってきました。本日は、その最前線から見えてきたもの、特にバブル崩壊以降、日本経済が非常に苦しい状況に陥った30年間と、コロナ禍を境にした未来について話をしていきたいと思っています。2019年に私のスタンフォード大学の盟友であるチャールズ・A・オライリー教授とハーバード大学のマイケル L. タッシュマン教授が書いた『両利きの経営』邦訳版(東洋経済新聞社/入山章栄監訳/冨山和彦解説/渡部典子訳)の解説を書きました。この本には、破壊的イノベーションの時代にどうやって未来を切り開いていくのか、ということが書かれています。しかし、この30年間で日本の会社、あるいは会社の集合体としての社会は、破壊的イノベーションについていけず、本質的な意味で耐用期限がかなり経過してしまいました。今後、デジタル・トランスフォーメーション(DX)が加速すればさらにギャップが大きくなりますので「何とかしなれば」という思いで『コーポレート・トランスフォーメーション』(文藝春秋)を書きました。本日は、この2冊の本からお話します。2.コロナショック現在地今まさに日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響を受けていますが、リーマンショックの時とは違い、地域のサービス産業、例えば飲食や宿泊、生活サービスや交通といった同時同場型の産業、地域密着型の産業に影響が出ています。グローバル産業は2分化し、Netflixのようなデジタル系のプラットフォームは好調ですが、一方で国際線を運航する航空業界のようなところは経営が苦しくなっています。その後は金融に影響が出ることになりかねなかったのですが、良し悪しは別として、政府がこの危機を早めに察知して、財政出動、金融出動をした結果、リスクは地域や企業、金融を飛び越えて国に移っています。今後、国がこの状況からどうやって抜け出すのか、これは深刻な問題です。しかし、今日お話ししたいことは、この危機をどう乗り切るかということではなく、あらかじめ有事を前提にした強靭な社会システム・企業システムを作っておく必要があるということです。経済危機は、20世紀の終わり頃から度々起きています。日本のバブル経済崩壊、アジア通貨危機、ITバブル崩壊、21世紀に入ってからは、リーマンショック、欧州債務危機が起きています。こうした経済危機は、恐らくこれからも起きますので、企業体、あるいは社会を含めて、「ブラックスワン型の破壊的危機は今後も起きる」ことを前提に、強健でたくましい社会システム、企業システムを作っておく必要があります。令和3年4月16日(金)開催冨山 和彦 氏(株式会社経営共創基盤 IGPIグループ会長 株式会社日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長)「破壊的イノベーションの時代の先にくるもの~企業経営の最前線からの景色:DXの加速と産業変容、社会変容、会社変容の加速~」演題講師職員 トップセミナー ファイナンス 2021 Aug.61連載セミナー

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