ファイナンス 2021年8月号 No.669
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を課すという意味で帽子(キャップ)をかぶるというイメージである一方、フロアは金利変動に下限(フロア)を設けるイメージですが、両方とも金利に関するオプションです。これらはOTC市場で取引されています。ここでは具体的な金融商品を見ることでキャップとフロアの特徴を考えていきます。例えば、仕組預金では支払い金利が変動金利であるものの、金利に下限が付されていることがあります。個人向け国債にも半年毎に利率が変わる商品(変動利付国債)がありますが、金利は0%以下にはならないという設計がなされています。これは、この商品に暗黙にフロアというオプションが含まれていることを意味します。同様に、例えば受け取る金利の上限(キャップ)が付されている場合もありますが、これはその商品に暗黙のうちにキャップというオプションが含まれていることを意味します。ここではキャップとフロアをわかりやすさの観点で、仕組預金で説明しましたが(ハル(2016)でも仕組債の事例を用いて説明しています)、前述のとおり、OTC市場でキャップとフロアそのものの取引がなされています。例えば、「想定元本1億円、期間10年、頻度を半年に1度、権利行使価格を0%、参照金利をDTIBOR*33(6か月物)としたフロアのビッドが欲しい」などという形で注文がなされます。仕組預金の中にフロアやキャップが含まれていると記載しましたが、金融機関はこれらの商品を提供するうえで、フロアとキャップを使ってヘッジをしています*34。フロアの場合、前述のとおり、仕組預金などのヘッジで用いられることを考えると、権利行使価格が0%のフロアが取引される傾向がありますが、キャップの場合、様々な権利行使価格のキャップが取引されています。6.3 キャップレットとフロアレットキャップとフロアの大きな特徴は権利行使が複数回ある点です。先ほど例では、仕組預金の金利がその*33) TIBORには本邦無担保コール市場の実勢を反映した「日本円TIBOR(DTIBOR)」と本邦オフショア市場の実勢を反映した「ユーロ円TIBOR(ZTIBOR)」があります。*34) 例えば、フロアが付された商品を組成した場合、金利がマイナスになると、金融機関は市場の金利がマイナスにもかかわらず、金利は0%となるため(マイナス金利にもかかわらず金利を受け取らないため)、損失を被ります。そのため、0%のフロアを買っておくことで、金利がマイナスになった場合、利益が出るポジションを事前に作ることでこのリスクをヘッジすることができます。*35) 例えば、割引債は短期国債など一部に限られますが、割引債の価格のプライシングができれば、利付債のプライシングも複製されるため、ファイナンスのテキストでは割引債のプライシングに焦点が当てられます。時々の金利に依存するというケース(変動金利のケース)でしたが、例えば半年ごとにその時々の金利が支払われるとします。この場合、仕組預金の変動金利に0%のフロアが付されているとしたら、半年ごとに金利がマイナスになった場合、0%に金利が設定されることを考えれば、利払いのタイミングごとにオプションの行使のタイミングが来ていると解釈できます。このように、キャップやフロアは権利行使のタイミングが複数回あるため、複数のオプションが組み合わさっていると解釈できますが、その一つのオプションだけを取り出したものをキャップレットとフロアレットといいます。その意味では、キャップ(フロア)とは、キャプレット(フロアレット)のポートフォリオと解釈できます。ファイナンスのテキストではプライシングに際しては、キャップレットとフロアレットという形で議論がなされます。というのも、キャップレットとフロアレットのプライシングができれば、キャップとフロアはこれらのポートフォリオであることを考えると、キャップとフロアのプライシングも容易に複製できるからです(こういう工夫はファイナンスでよくなされます*35)。 ファイナンス 2021 Aug.59シリーズ 日本経済を考える 115連載日本経済を 考える

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